Part2 知っておきたい認知症の基礎知識

認知症と間違いやすい病態は?

編集・執筆 「エキスパートナース」編集部

2019年5月公開

認知症のなかでも特にアルツハイマー型認知症は、加齢に伴うもの忘れ(生理的健忘)やせん妄、うつ病などと病態がよく似ています。鑑別は簡単ではありませんが、疾患が違えば、適切なケアや治療法が変わってきます。ここではそれぞれの病態の違いを紹介します。

1.加齢に伴うもの忘れ(生理的健忘)

もの忘れは、加齢に伴うものと認知症によるものとでは、性質が大きく異なります。加齢に伴う場合は、例えば夕食で何を食べたか思い出せないなど、出来事の一部を忘れてしまうのに対し、認知症の場合は夕食をとったこと自体を忘れてしまいます。つまり、体験や出来事の全体を忘れてしまうのです。両者には、ほかにも表2に示すような違いがあります。

表2 加齢に伴うもの忘れと認知症によるもの忘れの違い

加齢に伴うもの忘れ

  • 体験やできごとの一部を忘れる
  • もの忘れに対する自覚がある
  • 日常生活に支障がない
  • 進行しない
  • もの忘れを否定しない

認知症によるもの忘れ

  • 体験やできごとの全体を忘れる
  • もの忘れに対する自覚が乏しい
  • 日常生活に支障がある
  • 進行する
  • もの忘れを否定したり、ごまかしたりする

加齢に伴うもの忘れでは、夕食で何を食べたか思い出せないなど、記憶の一部を忘れてしまうのに対し、認知症では夕食をとったこと自体を忘れてしまいます。

2.せん妄

せん妄とは、術後や薬剤の影響によって急性に出現する意識障害をいいます。急激に発症し、一過性であることが大きな特徴ですが、症状が出現している間は、時間や場所の認識が混乱する見当識障害や幻覚など、認知症とよく似た症状がみられます。また、認知症の人がせん妄を発症することもあり、即座に「認知症ではない」と判断するには注意が必要です(表3)。

表3 せん妄とアルツハイマー型認知症の違い

せん妄

  • 急激に出現し、発症時期の特定が可能
  • 身体疾患や薬剤の影響を受けて起こる
  • 意識障害がある
  • 一過性
  • 日内変動がある

アルツハイマー型認知症

  • 徐々に進行する
  • 身体疾患や薬剤の影響がなく、神経変性が原因
  • 意識障害がない
  • 進行性
  • 日内変動がない

せん妄は、身体疾患や薬剤の影響を受け、苦痛が増強した場合などに急激に出現します。認知症は、特に身体疾患や薬剤の影響がない状態で、せん妄のような状態が重なることがあり、ケアが必要となります。

3.うつ病

うつ病には、記憶障害や集中力の低下、気分の落ち込みなど、アルツハイマー型認知症の症状と重なる症状があります。認知症の初期症状にうつ状態があることからも、鑑別はより難しくなります。ただし、うつ病の場合は、抗うつ薬の服用で症状が改善する場合もあるため、治療につなげるうえでも両者の鑑別ポイントをおさえておくことはとても重要です(表4)。

表4 うつ病とアルツハイマー型認知症の違い

うつ病

  • 短期間のうちに発症する
    (週単位もしくは月単位)
  • 記憶障害など自身の症状に対して自覚があり、悲観的である
  • できなくなったことやもの忘れを自分のせいにする

アルツハイマー型認知症

  • 徐々に進行する(数か月から数年単位)
  • 記憶障害など自身の症状に対して自覚のない場合が多く、悲観的な様子はほとんどみられない
  • できなくなったことやもの忘れを人のせいにする

認知症の場合、できないことに対し、うまく取り繕うことができます。うつ病では、できないことを深刻にとらえ、自責の気持ちがあります。

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