これからの普及が期待される「腹膜透析(PD)」とますます重要になる看護師の役割
群馬大学医学部保健学科看護学専攻/
大学院保健学研究科 教授
岡 美智代
2023年7月公開
慢性腎臓病患者が自分の腎臓の働きだけでは生命維持ができなくなった場合、腎代替療法という治療が必要になります。腎代替療法は、血液透析(hemodialysis:HD)、腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)、腎移植に大別されますが、ここでは特に腹膜透析に焦点を絞って解説しましょう。なお、腎代替療法に加え、最近は透析を行わないという保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)も含める考え方もあることを補足しておきます。
わが国でPDが保険収載されてから35年以上経過しますが、この間にPDは大いに進歩しています1。例えば、PDを長年行っていると腹膜が劣化してしまうため、それを防ぐために生体適合性のよい腹膜透析液が開発されたり、残腎機能低下に基づく透析不足への対策として、「PD+HD併用療法」が行われたりしています1。
日本透析医学会では,毎年わが国のほぼすべての透析施設を対象に大規模調査を行っています。その調査1によると,わが国の透析患者数は年々増加し、2020年末の施設調査結果による透析患者数は347,671 人に達し、人口百万人あたりの患者数は2,754人となっています。
2020年12月31日現在の調査において、透析治療方法の全体に占める各透析治療形態の割合は、HDは49.3%、血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF)は47.1%、血液濾過(hemofiltration:HF)は0.004%、血液吸着透析は0.4%、在宅血液透析(home hemodialysis:HHD)は0.2%、PDはHD併用を含めて3.0%となっています(表1)1。
この数字だけ見ると、PDは透析患者全体の中でも3.0%と一桁であり、透析患者全体から占める割合は決して多いとは言えません。しかし、各年末のPD患者数は、2017年から増加傾向にあると言われています1。筆者は、2017年から2020年末までの慢性透析患者の透析療法別にみた割合をまとめました(表2)。これを見ると、0.1%ずつですが増加していることがわかります。つまり、PD患者は他の透析患者の中でもじわじわと増えてきているのです。また、2020年の新規導入患者数のうち、PDでの新規導入は2481人であり、透析患者全体の6.1%となっています。このことから、PD患者が増加していることが透けて見えます。
補足ですが、HDF患者数は急激に増加しており、HD患者の割合は減少しているのも特徴的です。これは2012年の診療報酬の改定で、HDFの大幅改定があったためと言われています2。
表1 わが国の慢性透析療法の要約(2020年)
治療方法 | 通院 | 入院 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
血液透析等 | 血液透析(HD) | 149,082(47.0%) | 22,242(72.5%) | 171,324(49.3%) |
血液透析濾過(HDF) | 155,782(49.1%) | 8,043(26.2%) | 163,825(47.1%) | |
血液濾過(HF) | 10(0.0%) | 4(0.0%) | 14(0.0%) | |
血液吸着透析 | 1,369(0.4%) | 50(0.2%) | 1,419(0.4%) | |
在宅血液透析 | 750(0.2%) | 1(0.0%) | 751(0.2%) | |
腹膜透析等 | 腹膜透析(PD) | 7,916(2.5%) | 272(0.9%) | 8,188(2.4%) |
PD+週1回HD(F)等との併用 | 1,839(0.6%) | 43(0.1%) | 1,882(0.5%) | |
PD+週2回HD(F)等との併用 | 161(0.1%) | 4(0.0%) | 165(0.0%) | |
PD+週3回HD(F)等との併用 | 30(0.0%) | 1(0.0%) | 31(0.0%) | |
上記以外の併用 | 65(0.0%) | 7(0.0%) | 72(0.0%) | |
小計 | 10,011(3.2%) | 327(1.1%) | 10,338(3.0%) | |
2020 年末透析患者総数 | 317,004(100.0%) | 30,667(100.0%) | 347,671(100.0%) |
2020 年末透析患者のうち,夜間透析患者数 | 31,468人(559人減) |
2020 年 新規導入患者数 | HD(F)等で新規導入 | 38,263人 |
PD で新規導入 | 2,481人 | |
合計 | 40,744人(141 人減 0.3%減) |
花房規男,他:わが国の慢性透析療法の現況(2020 年12月31日現在).透析会誌 2021,54(12):611-657.より引用
表2 透析療法別みたわが国の慢性透析患者の割合
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|---|
血液透析(hemodialysis:HD) | 68.2 | 59.6 | 54.5 | 49.3 |
血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF) | 28.4 | 37.0 | 42.0 | 47.1 |
血液濾過(hemofiltration:HF) | 0.01 | 0.004 | 0.009 | 0.004 |
血液吸着透析 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 |
在宅血液透析(home hemodialysis:HHD) | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD) | 2.7 | 2.8 | 2.9 | 3.0 |
このように、透析患者全体の中に占めるPD患者の割合は、少しずつではありますが、各年末のPD患者数だけでみると、2017年から増加傾向にあります(前項表2)。
また、2020年末のPD患者10,338人のうち、PDのみを行っている人は79.2%であり、HDやHDFとの併用療法を行っている人は20.8%でした2。
「PD+HD併用療法」は、週5~6回のPDに1回4~5時間のHD、またはHDFを週1回行うような治療法です。本療法は、残腎機能が低下し、PDのみでは体液量管理や溶質除去が困難になった患者に開始されることが多いです。その臨床効果としては、過剰体液の是正(体重減少、血圧低下、降圧薬数の減少)、透析不足の改善(クレアチニン、β2ミクログロブリン低下)、貧血の改善などが報告されています1。また、PD+HD併用療法群はPD単独群と比較して、全死亡、心血管死亡、心不全関連死亡が有意に低いことも報告されており、予後の改善につながる可能性があります2。
すべての透析患者の中でPD患者は3%と低い割合ではありますが、じりじりと増加しています。また、PD単独療法ではなく、PD+HDやHDF併用療法が増えてきています。今後は、PD単独療法ではなくPD+HDやHDF併用療法は、透析不足と体液量の過剰を改善するとともに、PD患者の予後の改善につながる治療法といえるかもしれません。引き続き、今後の動向が注目されます。
引用文献
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