2021年12月公開
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的大流行となり、私たちの生活は大きく様変わりしました。その大きく変わったことの1つに“人との距離”があります。当初、感染症対策の1つとして、“ソーシャルディスタンス”、あるいは“社会的距離”の確保が呼びかけられ、人との接触をできるだけ減らし、不用意に身体に触れることを避け、一定の距離を保つことが求められました。しかし、こうした生活が長く続くことで、いつの間にか心のつながりさえも希薄になり、孤立感や不安感を覚えた人もいたのではないでしょうか。
“触れる”ことがいかに必要なことかを教えてくれるケアがあります。皆さんは、スウェーデン発祥の「タクティール®ケア」をご存知でしょうか。「タクティール®ケア」とは、「手を使って10分間程度、相手の背中や手足を“押す”のではなく、やわらかく包み込むように触れる」ケアをいいます1。株式会社日本スウェーデン福祉研究所が商標登録しているケアで、ラテン語の「触れる」を意味する「タクティリス(taktilis)」から名づけられています。
「タクティール®ケア」は、1960年代に、スウェーデンの未熟児ケアを担当していた看護師が始めたもので、手で触れることで子どもの体温が安定したり、体重が増加するなど、回復の効果がみいだされたことから、徐々に施術法としての地位を確立してきました。
さらに、“触れる”ことは、触れる側にもよい影響をもたらします。新生児集中治療室(NICU)への入院を経験した低出生体重児の母親を対象とした研究2によると、子どもが保育器に入ることによる母子分離は、母子間の心理的距離を生じさせ、最初期の母子関係構築における危機的状況を発生させますが、抱っこや授乳が自由にできる状況になると、一気に危機的状況が解消されたそうです。抱っこや授乳といった身体接触が、子どもの状態の安定だけでなく、母親の側にも“親になった実感”などを呼び起こし、子どもを積極的に受け入れ、育児への意欲を徐々に培う体験になったと報告されています。
親子間の愛着形成や安心感の醸成は、例えば、ベビーマッサージでもその効果が期待できます。ベビーマッサージは触れられている子どもだけでなく、マッサージを行っている親も心地よい気持ちになりリラックスすると言われています。ジョン・ボウルビィは、愛着理論でスキンシップの重要性を提唱していますが、触れたり、触れられたりする体験は、心理的・情緒的に必要な体験であり、本能的な要求だといえるでしょう。
現在もCOVID-19の感染拡大防止の観点から、面会の制限を実施する病院や施設が多いと思われます。家族や友人に会えず、寂しい思いをされている患者さんがいらっしゃれば、直接かかわることができる看護師や介護職の皆さんが、より積極的に患者さんの手や背中に触れるケアを取り入れてみるのはいかがでしょうか。
物理的な交流や接触の機会が減った今だからこそ、タッチングに意義があると考えます。看護師が自らの手で患者さんに安心と安楽を与えられる技術として、タッチングの大切さを実感してほしいと感じます。
引用文献
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