Part1“酸素療法”ってどんなもの?

地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪はびきの医療センター看護部
(慢性疾患看護専門看護師)
平田 聡子

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2022年3月公開

4.なぜPaO2<60torrまたはSaO2<90%が酸素療法の適応となるの?

酸素療法の適応である「PaO2<60torrまたはSaO2<90%」の理由を知るには、PaO2とSaO2の関係を知っておく必要があります。この2つの関係性を示したグラフをヘモグロビン酸素解離曲線といいます(図6)

図6ヘモグロビン酸素解離曲線(文献1,2より作成)

一定の条件下でSaO2が97%~98%のとき、PaO2は100mmHgとなります。PaO2が100mmHgを超えたとしても、SaO2は100%以上にはなりません。図4をみてわかるようにSaO2が90%のとき、PaO2は60mmHgとなり、ここを境に急激にPaO2が低下し始めます。そのため、この時点が呼吸不全の診断基準の値となり、酸素療法の適応基準となっています。SaO2が75%になると、PaO2は40mmHg(混合静脈血値)となり、心筋虚血変化が起こります。さらに、SaO2が50%では、PaO2は27mmHgとなり意識障害・昏睡・組織破壊が起こり、臓器機能障害は発生します。酸素管理をするにあたり、これらの数字はとても重要ですので、覚えておくようにしましょう。

この曲線は、固定されているわけでなく、PaO2の増加、pHの低下、体温の上昇、2,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)(注1)の増加により、ヘモグロビンと酸素の結びつき(親和性)が低下します。その結果、グラフ全体は右側に移動し(右方偏位、図7)、酸素が放出しやすくなり、組織へ酸素が行き渡りやすい状態となります。逆にPaO2の低下、pHの上昇、低体温、2,3-DPGの低下により、グラフ全体は左側に移動し(左方偏位、図7)、ヘモグロビンと酸素の結びつきが強くなり、酸素を放出しづらくなります。貧血のときにも左側へグラフは移動します。これらのことを念頭におき、全身状態をアセスメントした上でSpO2からPaO2を予測することが重要です。

図7右方偏位と左方偏位

注12,3-DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)とは?
2,3-DPGは、赤血球中に多く含まれ、ヘモグロビンと結びついて行う酸素運搬に大きな役割を果たしています。そのため、動脈血中に多く存在すると、酸素はたくさん運ばれ、逆に少ないと酸素が足りない状態になります。

引用文献

  1. 1.森みさこ:SpO2(経皮的酸素飽和度)の見かた・使いかた.Emergency Care 2018,31(5):44-50.
  2. 2.大槻勝明:酸素解離曲線とはどのようなものですか?.Expert Nurse 2010,26 (6):71-72.
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