Part1“酸素療法”ってどんなもの?

地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪はびきの医療センター看護部
(慢性疾患看護専門看護師)
平田 聡子

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2022年3月公開

5.呼吸不全ってなに?

(1)呼吸不全とは

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の『酸素療法マニュアル』によると、“呼吸不全”は「呼吸機能障害のため動脈血ガス(特にO2とCO2)が異常値を示し、そのために正常な機能を営めない状態であり、室内気空気呼吸時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下となる呼吸器系の機能障害、またはそれに相当する状態」1と定義されています。

つまり、呼吸機能障害のために室内気でPaO2が60Torr以下となる状態を呼吸不全と呼びます。さらに、1か月以上継続すると“慢性呼吸不全”と言われる状態になります。
慢性呼吸不全には、“Ⅰ型呼吸不全”“Ⅱ型呼吸不全”の2種類があります。Ⅰ型呼吸不全は、主にガス交換障害が原因で、PaCO2の上昇を伴わないもの、Ⅱ型呼吸不全では、主に換気障害が原因でPaCO2の上昇(45Torr以上)を伴います。慢性呼吸不全の基礎疾患としては、COPDが45%と最も多く、肺線維症・間質性肺炎や肺がんが増加しています。

Ⅰ型呼吸不全かⅡ型呼吸不全かによって、酸素管理の方法が異なります。Ⅱ型呼吸不全患者に高濃度酸素を長時間投与し続けると、高二酸化炭素血症(CO2ナルコーシス)を引き起こします。そのため、特にⅡ型呼吸不全患者への酸素投与は、低濃度から始めます。しかし、CO2ナルコーシスを恐れるあまり、低酸素状態にならないよう注意が必要です2。酸素療法を開始した慢性呼吸不全患者が、どちらのタイプの呼吸不全かを必ず確認するようにしましょう。

(2)なぜⅡ型呼吸不全患者への長時間の高濃度酸素投与に注意が必要なの?

健常者は、血液中の二酸化炭素分圧(PaCO2)によって呼吸中枢が刺激され、呼吸を維持しています。しかし、Ⅱ型呼吸不全患者の場合、普段から高二酸化炭素血症と低酸素血症となっているため、PaCO2による呼吸中枢への刺激に対する反応が鈍く、低酸素血症の状態によってかろうじて呼吸中枢が刺激されます。
そこに、高濃度酸素を長時間投与し続けると、呼吸中枢は「十分に酸素があるから大丈夫」と判断し、換気を抑えます。換気が抑えられると、PaCO2は排出されなくなり、さらに血中のPaCO2が上昇します。そのまま、上昇し続けると高二酸化炭素血症(hypercapnia)となり、意識障害等を引き起こすCO2ナルコーシスになるのです。

引用文献

  1. 1.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会酸素療法マニュアル作成委員会編:第Ⅰ章 酸素療法について-酸素療法とは.酸素療法マニュアル(酸素療法マニュアル改訂版).日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,2017:2-5.
  2. 2.日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会編:D 増悪期の管理 4 酸素療法.COPD診断と治療のためのガイドライン第5版.メディカルレビュー社,東京,2018:137.
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