Part3在宅酸素療法(HOT)とは

地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪はびきの医療センター看護部
(慢性疾患看護専門看護師)
平田 聡子

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2022年3月公開

Part3在宅酸素療法(HOT)とは

在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)とは、冒頭でもお話したように、「在宅で行われる酸素療法」です。日本呼吸器学会が2010年に発表した『在宅呼吸ケア白書』によると、HOTを導入している疾患としては、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が最も多く、その次に肺線維症や間質性肺炎、肺結核後遺症と続きます1
HOTは自宅で患者や家族が主体となって管理する必要があります。そのため、医療者は患者や家族がHOTを自分の生活に取り入れ、活用しながら望む生活を送れるように、病院、在宅の場でさまざまな支援を行っていくことが必要です。

ここからは、HOTの基礎的な知識と、主に慢性呼吸不全患者のHOT導入の進め方、ケアの基本についてお話しします。

(1)HOTの適応と保険適用

在宅酸素療法が導入される患者には、保険適用基準が決められており、高度慢性呼吸不全患者のほかに、肺高血圧、慢性心不全、チアノーゼ型先天性疾患となっています2。高度慢性呼吸不全の対象患者は、PaO2≦55Torr、およびPaO2≦60Torr以下で睡眠時または運動時に著明な低酸素血症となり、医師がHOTの必要性を認めた患者となっています。

HOTをどのような患者に導入するかという適応については、保険適用基準のほかに薬物療法などの十分な治療を行っても1か月以上、低酸素血症が持続していることを確認することが望ましいと言われています。

(2)効果3

COPD患者を対象とした研究では、長期酸素療法をしている患者のほうが生存率が上昇したという報告があります。さらに生存率の上昇には、使用時間が関係するといわれており、HOTにおいても自宅で処方された装着時間をしっかりと守ることが必要です。

(3)酸素供給装置の種類と特徴4

HOTで使用される酸素供給装置は、「酸素濃縮装置」と「液化酸素装置」の2種類があります。それぞれの特徴とメリット・デメリットについては表1に示します。

表1酸素供給装置の種類と特徴(文献4、5を参考に作成)
酸素濃縮装置
空気中から濃度の高い酸素を発生させる
約90%以上の酸素が供給可能
酸素濃縮器(設置型・携帯型)、酸素ボンベ
提供:帝人ファーマ株式会社
メリット
  • 家庭用電源で使用可能
  • 電源があれば連続使用が可能
  • お手入れが簡単
  • 設置型と携帯型がある
  • 操作が簡単
  • リモコンの使用が可能
  • 設置型を使用の場合は、外出時は携帯用酸素ボンベを使用
  • 携帯用酸素濃縮装置は、外出時にそのまま使用可能
デメリット
  • 電気代がかかる
  • 停電時は使用できない
  • 機械音(コンプレッサー)の音がある
  • 装置から熱が発生するため、設置場所の工夫が必要
  • 高流量で若干酸素濃度は低下
液化酸素装置
液化した酸素を気化させて酸素を供給する
ほぼ100%の酸素が供給可能
液体酸素〔親器・子器〕
提供:ケアメディカルジャパン株式会社
メリット
  • 子器は小型で軽量
  • 電気代はかからない
  • 停電時も使用可能
  • 高流量の酸素投与が可能
  • 熱の発生はない
デメリット
  • 親器から子器への充填が必要で手技の習熟が必要
  • 自然蒸発がある
  • 定期的な親器の交換が必要
  • 容器の転倒時の液漏れや低温やけどの可能性
  • 飛行機には持ち込み不可
  • 使用前届けや住宅事情による使用制限

酸素濃縮装置には、「設置型」と「携帯型」があります。酸素濃縮装置は、家庭用電源で使用可能なことや操作が簡単、携帯型ではそのまま外出ができ、アダプターを別に用意すれば、充電が可能であるといったメリットがあります。その一方で、停電時には使用できないことや外出時に使用する酸素ボンベはサイズによって持ち時間が変わり、小型のものではかなり使用時間が短くなるなどのデメリットもあります。 

液化酸素装置では、ほぼ100%の酸素の供給が可能であり、高流量の酸素投与ができること、電気を使用しないため、停電時にも使用可能である一方で、定期的な親器の交換や親器から子器への充填の手技が複雑であるといったデメリットもあります。

酸素濃縮装置の設置型を使用している患者の場合は、外出時は携帯用酸素ボンベを用います。酸素ボンベを連続使用すると使用可能時間が短く、長時間の外出ができません。そこで、呼吸同調装置という機器をボンベに取り付けることができます(図1)。呼吸同調装置とは、患者の呼吸の吸い始めを感知して酸素を供給する機器で、ボンベの使用時間を2~3倍に延長することができます。酸素ボンベだけでなく、携帯用の液化酸素装置にも呼吸同調装置は内蔵されています。患者の吸気が弱く感知しにくい場合には、高感度の呼吸同調装置もあります。

図1呼吸同調式レギュレータの例

サンソセーバー®5(帝人ファーマ株式会社)

酸素供給装置については、それぞれの特徴を考慮した上で、患者の呼吸状態や生活状況に応じて、患者、家族と相談しながら、患者にとって最適なものを選択することが必要です。

引用文献

  1. 1.日本呼吸器学会:要約 在宅呼吸ケア白書2010.在宅酸素療法の施行状況・患者の内訳,
    https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/photos/686.pdf.最終閲覧日2021/11/28.
  2. 2.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会酸素療法マニュアル作成委員会:第Ⅰ章 酸素療法について-酸素療法とは.酸素療法マニュアル(酸素療法マニュアル改訂版),日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,2017:2-5.
  3. 3.郷間厳:第1章 低酸素血症と酸素療法 1低酸素を生じる病態と酸素療法の有用性⑨QOL.郷間厳編,在宅酸素療法をイチから学ぶ本 基礎から適応病態別の処方まで.日本医事新報社,東京,2018:6-8.
  4. 4.前掲3 :139.
  5. 5.平野恵子:2章 在宅酸素デバイスの選び方・管理がわかる 1.酸素供給装置.石原秀樹,竹川幸恵編,病棟・外来・在宅医療チームのための在宅酸素療法まるごとガイド.みんなの呼吸器 Respica 2021,冬季増刊号:24-31.
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