基本から実践まで! 事例でよくわかる! 在宅酸素療法(HOT)の実際
地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪はびきの医療センター看護部
(慢性疾患看護専門看護師)
平田 聡子
2022年3月公開
HOTを導入する際には、仕事の見直しや行動制限、見た目による周囲の反応などが気になり、HOT自体を拒む言動をする患者も少なくありません。そのため、病気の状態やHOTの必要性を理解した上で、HOTを自分の望む生活をするための資源と捉えて使用できるよう、アドヒアランス支援がとても重要になってきます。
世界保健機関(WHO:World Health Organization)によると、「アドヒアランスとは、医療者が提案する治療方針等の決定に患者が積極的に同意し、その決定に従って治療を受けること」と定義されています1。医療者の指示に従うのではなく、患者自身が必要性を理解し、治療を実行していくという考え方です。HOT患者においては、HOTに対するアドヒアランスを高め、患者がHOTを生活に必要な資源と捉え、生活を再構築し、望む生活を送れるように支援することが医療者の役割です。
患者はHOTを導入することで、これまでの生活の再編を余儀なくされることも多く、さまざまな思いを抱きます。HOTを使用する生活のなかで、呼吸困難による活動範囲の制限やそれに伴い社会的役割を果たせなくなることによる自尊心の低下、自己コントロール感の喪失などの体験をします。医療者は、HOT導入によってさまざまな病いの体験をする患者の心理を理解した上で、アドヒアランス支援を行っていく必要があります。支援を行うにあたり、最も重要なことの一つは信頼関係を築くことです。
患者がこれまでどのような思いで過ごしてきたか、HOT導入に関してどのように感じているか、これまで大切にしてきたことなど、ナラティブ・アプローチで患者の語りを促します。この語りの中から患者の価値観や希望を知り、理解していきます。その過程で患者は価値観を承認されたと感じることで相手を信頼できるようになります。
また、患者の話を丁寧に聞き、患者にとって病気によって変化した生活のなかでも、欠かせないと思うことを一緒に探してくれる人がいることで、限られた選択肢の中で生活を再構築でき成長につながります2。
そのため、信頼関係の構築とともにパートナーシップの形成も非常に重要です。
アドヒアランスに影響する要因として、「患者に関連する要因」「治療に関連する要因」「社会/環境に関する要因」があると言われています(表1)。HOT患者で考えると、「患者に関する要因」は、患者がもともと持っている健康への意識や考え方、HOT管理をするにあたっての認知能力、心理的状態、病気やHOTに対する認識等です。また、「治療に関連する要因」としては、HOTを行う期間や酸素吸入に伴う身体的な不快感、鼻カニュラ装着による外見の変化に伴う周囲の反応、HOTに伴う費用、HOT導入に伴う呼吸困難の軽減の程度などです。「社会/環境に関する要因」としては、医療者との関係性、フォローアップ体制、医療機関へのアクセスの利便性、HOT患者を支えるサポート体制が整っているかなどが挙げられます。
HOTを導入しているものの処方通りに使用できない患者に対して、ただ単に使用を促すのではなく、表に示すようなアドヒアランス低下を招くような要因がないかをアセスメントし、その要因に対してアプローチしていくことが重要です。
表1 アドヒアランスに影響する要因(文献3から作成)
患者に関連する要因 | 治療に関連する要因 | 社会/環境に関する要因 | |
---|---|---|---|
要因 |
|
|
|
対応例 |
|
|
|
HOT導入時に手技習得がうまくいかなかったり、HOTを継続するなかで疾患の進行に伴う呼吸困難の増強により自分でできることが少なくなることで、“自己効力感の低下”を招きます。アドヒアランスに影響する要因の一つとして自己効力感が挙げられており、自己効力感向上への支援も重要です。
自己効力感とは、バンデューラが提唱したもので、「個人が行動を起こす能力に対する確信の程度」を言います。つまり、ある行動をうまくできるという確信の程度です。自分の行動が良い結果に結びつくと予測する「結果予期」と、ある行動を自分はどの程度うまくできるか予測する「効力予期」(自己効力感)があります。結果予期よりも効力予期(自己効力感)が高いほうが、行動を起こしやすいといわれています。
自己効力感を高める情報源には、「成功体験」「代理的体験」「言語的説得」「生理的・情動的状態」の4つがあります(表2)4,5。4つの情報源のなかでは特に「成功体験」が重要といわれています。HOT患者においては、自己効力感を高めることは、HOTを望む生活を送るための資源として捉え、病気や治療を自分自身でコントロールできるという自己コントロール感にもつながり、QOLの向上につながります6。
表2 自己効力感を高める情報(文献4、5より)
引用文献
会員登録をすれば、
Part4~Part7も読めます!
基本から実践まで! 事例でよくわかる!
在宅酸素療法(HOT)の実際
限定コンテンツ
実践のコツや記事などの
「限定コンテンツ」が見られる!
資料ダウンロード(PDF)
一部の記事で勉強会や
説明など便利に使える資料を公開中!
ケア情報メール
新たなコンテンツの
公開情報や、ケアに役立つ情報をお届け!
実践ケア動画
エキスパートのワザやコツが
学べる動画を多数掲載!
期間限定セミナー動画
各分野のエキスパートが登壇。
1回約15分で学べる!
電子書籍
書店で販売されている本や、
オリジナル書籍が読み放題!