Part5HOT患者のケアの基本

地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪はびきの医療センター看護部
(慢性疾患看護専門看護師)
平田 聡子

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2022年3月公開

HOTを導入する際には、仕事の見直しや行動制限、見た目による周囲の反応などが気になり、HOT自体を拒む言動をする患者も少なくありません。そのため、病気の状態やHOTの必要性を理解した上で、HOTを自分の望む生活をするための資源と捉えて使用できるよう、アドヒアランス支援がとても重要になってきます。

1.アドヒアランスを高めるための支援

世界保健機関(WHO:World Health Organization)によると、「アドヒアランスとは、医療者が提案する治療方針等の決定に患者が積極的に同意し、その決定に従って治療を受けること」と定義されています1。医療者の指示に従うのではなく、患者自身が必要性を理解し、治療を実行していくという考え方です。HOT患者においては、HOTに対するアドヒアランスを高め、患者がHOTを生活に必要な資源と捉え、生活を再構築し、望む生活を送れるように支援することが医療者の役割です。

(1)信頼関係の構築とパートナーシップの形成

患者はHOTを導入することで、これまでの生活の再編を余儀なくされることも多く、さまざまな思いを抱きます。HOTを使用する生活のなかで、呼吸困難による活動範囲の制限やそれに伴い社会的役割を果たせなくなることによる自尊心の低下、自己コントロール感の喪失などの体験をします。医療者は、HOT導入によってさまざまな病いの体験をする患者の心理を理解した上で、アドヒアランス支援を行っていく必要があります。支援を行うにあたり、最も重要なことの一つは信頼関係を築くことです。

患者がこれまでどのような思いで過ごしてきたか、HOT導入に関してどのように感じているか、これまで大切にしてきたことなど、ナラティブ・アプローチで患者の語りを促します。この語りの中から患者の価値観や希望を知り、理解していきます。その過程で患者は価値観を承認されたと感じることで相手を信頼できるようになります。

また、患者の話を丁寧に聞き、患者にとって病気によって変化した生活のなかでも、欠かせないと思うことを一緒に探してくれる人がいることで、限られた選択肢の中で生活を再構築でき成長につながります2
そのため、信頼関係の構築とともにパートナーシップの形成も非常に重要です。

(2)アドヒアランスに影響する要因3

アドヒアランスに影響する要因として、「患者に関連する要因」「治療に関連する要因」「社会/環境に関する要因」があると言われています(表1)。HOT患者で考えると、「患者に関する要因」は、患者がもともと持っている健康への意識や考え方、HOT管理をするにあたっての認知能力、心理的状態、病気やHOTに対する認識等です。また、「治療に関連する要因」としては、HOTを行う期間や酸素吸入に伴う身体的な不快感、鼻カニュラ装着による外見の変化に伴う周囲の反応、HOTに伴う費用、HOT導入に伴う呼吸困難の軽減の程度などです。「社会/環境に関する要因」としては、医療者との関係性、フォローアップ体制、医療機関へのアクセスの利便性、HOT患者を支えるサポート体制が整っているかなどが挙げられます。
HOTを導入しているものの処方通りに使用できない患者に対して、ただ単に使用を促すのではなく、表に示すようなアドヒアランス低下を招くような要因がないかをアセスメントし、その要因に対してアプローチしていくことが重要です。

表1 アドヒアランスに影響する要因(文献3から作成)

横にスクロールしてご覧いただけます。

患者に関連する要因 治療に関連する要因 社会/環境に関する要因
要因
  • 健康に関する信念
  • 認知能力
  • 自己効力感
  • 依存の程度
  • 心理的状態
  • 誠実性
  • 病気に関する知識・認識
  • 治療方法
  • 治療計画:目的、期間、頻度
  • 併用する治療
  • 副作用
  • 治療の複雑さ
  • 治療にかかる費用
  • 治療に対する周囲の反応
  • 症状への影響の程度
  • 患者と医療者との信頼関係
  • 社会的サポート
  • 医療へのアクセスのしやすさ
  • ケアの継続性
対応例
  • 病気やHOTに関する知識提供や理解の促進
  • 認知能力に合わせた説明や機器操作
  • 自己効力感向上へのアプローチ
  • 習慣化できるための工夫を話し合う
  • HOTを行うことによるメリットを強調する:望む生活を叶えるための資源と捉える
  • 酸素流量設定をできるだけ簡便にする
  • カニュラ装着での不快感の軽減への対応(乾燥予防、鼻水に対する点鼻処方等)
  • 見た目に対しては、目立たないための工夫
  • 患者との信頼関係の構築
  • パートナーシップの形成と強化
  • 外来や在宅でのフォロー体制の構築

(3)自己効力感向上への支援4

HOT導入時に手技習得がうまくいかなかったり、HOTを継続するなかで疾患の進行に伴う呼吸困難の増強により自分でできることが少なくなることで、“自己効力感の低下”を招きます。アドヒアランスに影響する要因の一つとして自己効力感が挙げられており、自己効力感向上への支援も重要です。

自己効力感とは、バンデューラが提唱したもので、「個人が行動を起こす能力に対する確信の程度」を言います。つまり、ある行動をうまくできるという確信の程度です。自分の行動が良い結果に結びつくと予測する「結果予期」と、ある行動を自分はどの程度うまくできるか予測する「効力予期」(自己効力感)があります。結果予期よりも効力予期(自己効力感)が高いほうが、行動を起こしやすいといわれています。

自己効力感を高める情報源には、「成功体験」「代理的体験」「言語的説得」「生理的・情動的状態」の4つがあります(表2)4,5。4つの情報源のなかでは特に「成功体験」が重要といわれています。HOT患者においては、自己効力感を高めることは、HOTを望む生活を送るための資源として捉え、病気や治療を自分自身でコントロールできるという自己コントロール感にもつながり、QOLの向上につながります6

表2 自己効力感を高める情報(文献4、5より)

成功体験
情報
  • 達成できたという成功体験を積み重ねる
支援方法
  • ステップバイステップで達成できそうな目標を段階的に立てる
  • 少しでもできたことは、成功体験として称賛する
支援例
  • 酸素供給装置や酸素ボンベの取り扱い練習を段階的に行う
  • 機器操作でできたことに対して褒める
代理的体験
情報
  • 患者自身と同じ状況の人の成功体験を見聞きする
支援方法
  • 患者同士の話し合いの場を設ける
  • 同じような患者がうまく治療法を取り入れている姿をみてもらう
支援例
  • 酸素機器を取り入れ、望む生活を送っている姿を見せたり、体験を聞く機会を設定する
言語的説得
情報
  • 信頼する専門家からの励ましや称賛
支援方法
  • 医師や看護師から「きっとあなたならできる」と声かけを行う
  • 治療法を取り入れることで、望む生活を送ることができることを話す
支援例
  • 機器の操作練習の際には、医療者から「きっとできるようになる」と常に声かけする
  • 酸素を使用して生活することで、呼吸困難が軽減した生活が送れることを力強く話す
生理的・情動的状態
情報
  • 課題を実行した際の生理的や心理的な良好な反応
支援方法
  • 治療法を実行することで、症状の軽減を実感してもらう
支援例
  • 適切な酸素流量を吸入することで、呼吸困難や動悸がないことを実感してもらう
  • モニタリングにより、SpO2の低下や脈の上昇がないことを視覚的にも確認してもらう

引用文献

  1. 1.World Health Organization(WHO):Adherence to Long-term Therapies Evidence for Action. Ann Saudi Med 2004, 24(3):221–222.
  2. 2.高橋綾:「患者の価値観に寄り添う」と私がモヤモヤする理由.緩和ケア 2018;28(2):84-89.
  3. 3.Bourbeau J, Bartlett SJ:Patient adherene in COPD. Thorax 2008, 63(9):831-838.
  4. 4.安酸史子,吉田澄恵,鈴木純恵編:セルフマネジメント.ナーシンググラフィカ 成人看護学3.メディカ出版,大阪,2014.
  5. 5.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会,日本呼吸器学会 肺生理専門委員会編:第Ⅺ章 酸素療法と看護.酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドライン改訂版).日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会.東京,2017:111.
  6. 6.竹川幸恵:第5 章 看護ケアの実際 看護介入.在宅酸素療法ケアマニュアル (大阪府立 呼吸器・アレルギー医療センター編),メディカ出版,大阪,2012:238-239.
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