Part4足病変

足のナースクリニック 代表
西田壽代

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2021年10月公開

1.糖尿病性足病変とは

(1)糖尿病性足病変の原因

足病変の原因となる代表的な疾患が、糖尿病です。
糖尿病の患者さんには、慢性的・長期的な高血糖に伴う末梢神経障害がみられます。知覚神経障害によって下肢の感覚が鈍り、痛み等を感じにくくなると、胼胝や靴ずれ、外傷などに気づかないことがあります。さらに、糖尿病の高血糖は易感染状態ももたらします。足にできた創傷に感染を伴い、潰瘍や壊疽といった重症化につながるリスクがあります。さらに、末梢神経障害による足の冷えや発汗の低下なども、足病変の進行に関与します。
また、糖尿病は動脈硬化を合併することも多く、下肢に血流障害や虚血がみられます。これらも足病変の発症と進行に関与しています。
足病変は悪化すれば全身状態にも影響を及ぼし、下肢の切断を避けられなくなる場合があります。これらのリスクを十分に認識し、早期に足の異変を見つけ、対処することが重要なのです。

(2)糖尿病性足病変のアセスメント

足病変による下肢の切断を回避するためには、日ごろからの予防的なフットケアがとても重要です。
糖尿病や腎不全の患者さん、特に透析を行っている患者さんなどは、足病変ハイリスクの方として認識し、定期的なスクリーニングが必要です。Part3で紹介したような点をチェックし、異常を認めた場合は、皮膚科や外科、形成外科、整形外科などと連携し、早期の診察・治療へとつなげましょう。

また、医療者だけではなく患者さん自身が足に関心をもち、日々観察することが、異常の早期発見につながります。しかし、糖尿病の患者さんには高齢の方も多く、糖尿病網膜症を合併することで自身の足をきちんと観察できなかったり、活動性が低下することで足の変化に気づきにくい場合もあります。医療者と患者さん、そして家族等の同居者とも協力して、定期的な観察・ケアを行うことが大切です。

2.足の変形

足に合わない靴を履き続けることや、糖尿病の合併症として生じる運動神経障害は、足の変形の原因となります。特定の部位に荷重がかかって胼胝や潰瘍を生じやすくなり、それによる痛みがさらなる変形や病変の悪化につながる悪循環に陥ってしまいます。
臨床でよくみられる足の変形を以下に示します。足の骨と関節の名称はPart2の図2をご参照ください。

(1)ハンマートゥ・クロゥトゥ

ハンマートゥはPIP関節が屈曲、DIP関節が伸展した状態です(図1)。足趾が凸型に屈曲し、その突出部が靴などに当たって胼胝や鶏眼が生じやすいです。特に矢印で示したPIP関節の背側に注意が必要です。
クロゥトゥはPIP関節とDIP関節が屈曲した状態です(図2)。IP関節の背側や趾尖部に胼胝や潰瘍を生じやすいです。

図1ハンマートゥ
図2クロゥトゥ(第3趾、第4趾)

(2)外反母趾、内反小趾(ないはんしょうし)

母趾が外側(小趾側)に曲がりMTP関節が外側に突出した状態が外反母趾、小趾が内側(母趾側)に曲がりMTP関節が突出した状態が内反小趾です(図3)。MTP関節の突出部に胼胝や靴ずれなどを生じやすいです。原因ははっきりとはわかっていませんが、ハイヒール等先端の細い靴はその誘因といわれています。

図3外反母趾、内反小趾

(3)凹足(おうそく)、甲高

糖尿病性神経障害に伴う足の筋萎縮やバランス障害によって、足のアーチが顕著になったような、甲が高く中足骨骨頭部が突出した状態です(図4)。中足骨骨頭部に荷重がかかりやすく、胼胝や鶏眼を形成しやすいです。

図4凹足、甲高

(4)シャルコー関節

自律神経障害によって骨代謝異常が生じることで、外力によって容易に骨折しやすい状態となります。また、靭帯の弛緩や関節不安定などに伴う無痛性歩行が、脱臼などにつながります。これらが複合して足の変形につながります。糖尿病の患者さんは知覚神経障害によって骨折が起こっていても気がつかないこともあるため、注意が必要です。
足根骨の下方偏位や、踵骨足根骨の内側転位などを認めます(図5)。糖尿病の患者さんで、熱感・腫脹・疼痛などがあれば、感染のほかにシャルコー関節も疑う必要があります。単純X線撮影によって骨折の有無などを確認しましょう。

図5シャルコー関節

3.足の皮膚疾患

足の皮膚疾患には、炎症や感染を伴うもの、悪性黒色腫などの腫瘍性疾患、皮膚のターンオーバーの異常等によって生じる角化症など、さまざまな病態があります。日ごろから足をよく観察することで、皮膚の色調変化や水疱、潰瘍等にいち早く気づくことが大切です。
ここでは、施設や在宅の場で遭遇する機会の多い、以下の4つを取り上げます。

(1)角化症(かくかしょう)

足の皮膚が乾燥し、角質が肥厚することを角化症といいます。乾燥と角化が進行すると、皮膚の弾力性が失われ、圧迫やずれ力が加わることで亀裂が生じることもあります(図6)。足底、特に踵部は体重を支えるためにもともと角層が厚く、硬めになっており、角化症による亀裂が生じやすい部位です。
皮膚が亀裂すると、痛みはもちろんのこと、感染を引き起こす恐れがあります。肥厚部を削り、保湿するといったケアが大切です(Part5-7.角質肥厚・亀裂へのケア参照)。

図6角質の肥厚による亀裂

胼胝・鶏眼も角化症の一種です。皮膚に長期間、圧迫や摩擦・ずれなどの機械的な刺激が加わり、局所的に角質が増殖した状態です。この角質増殖によって、分厚く肥厚したものが胼胝、角質層が深層に棘のように突起して芯のあるものが鶏眼です(図7)。
胼胝は基本的に痛みを伴いませんが、厚く硬くなった部分に圧がかかると痛みを生じる場合もあります。鶏眼は痛みを伴うことが多く、早めのケアが必要です。肥厚した部分を削り、周囲皮膚と段差がないように整えます(Part5-6.胼胝・鶏眼のケア参照)。
なお、糖尿病患者などで末梢神経障害を伴う方は痛みを感じにくく、胼胝・鶏眼に気づかないまま歩行や圧迫を続け、深部組織が損傷を受ける恐れがあります。特に骨突出部や骨端にできたものには注意が必要です。角質肥厚下や角質肥厚内に血種が認められた場合は、医師に報告し、注意深く削って状態を確認します(図8)。

このような悪化を未然に防ぐためには、患者さん自身に足の観察を習慣にしてもらうことも大切です。足を見て、触り、硬くなってきた部分や黄色っぽく変色してきた部分があれば医療者に知らせるよう、具体的な方法も含めてサポートできるとよいでしょう。

図7胼胝(左)・鶏眼(右)

図8角質下にできた血種

(2)足白癬(あしはくせん)

白癬は白癬菌の感染によって引き起こされる疾患で、手や足、爪、生毛部などに生じますが、なかでも足白癬が圧倒的に多くみられます。
白癬では、足趾間や足底部、後述するように足の爪などに症状がみられます(図9)。角質増殖とそれに伴う落屑や、浸軟した鱗屑を伴う紅斑性局面、小水疱などがみられ、かゆみや痛みを伴うこともあります。
治療には抗真菌薬を用います。また、足の不潔や湿潤状態が誘因となるため、適切な洗浄と適度な乾燥を保ちます。また、同居家族や入所者に白癬症の患者さんがいると、そこから感染が広がることがあるため、足拭きマットやスリッパの洗浄・消毒、室内の床拭きなどを日々行うことが大切です。白癬菌の付着を完全に防ぐことは難しいため、日々の足の洗浄を併せて行うことで、感染・発症を防ぎます。

図9足趾間に生じた足白癬

(3)蜂窩織炎(ほうかしきえん)

主に黄色ブドウ球菌の感染によって、真皮から皮下組織にかけて急性炎症が生じた状態です。糖尿病患者や、下肢の循環障害のある患者さんにみられることが多いです。下腿部にかけて熱感を伴う発赤や腫脹を生じます(図10)。症状が進むと膿瘍化し、発熱や食欲低下、倦怠感などの全身症状が生じます。壊死性に進展すると下肢を切断せざるを得なくなる場合もあり、早期の対処が必要です。
血液検査や細菌培養で蜂窩織炎と診断されたら、抗菌薬による治療を行います。膿瘍化している場合は、切開して排膿が必要になる場合もあります。

図10蜂窩織炎

(4)接触皮膚炎

外用薬や衣服、医療用テープなどさまざまな外的刺激によって生じる皮膚の炎症で、紅斑や水疱、鱗屑などの症状に痛みやかゆみを伴います。原因となる刺激を除去することで対処し、必要に応じてステロイド剤やかゆみ止めを使用します。

4.爪の疾患・変形

足の爪は靴による外力を受けやすい部位であり、疾患や変形が生じると歩行にも大きな影響を及ぼします。また、爪切りを患者さんや家族が行っている場合、不適切な切り方で爪の変形や周囲皮膚の炎症を引き起こしていることもあります。ここでは、以下の3つの病態を紹介します。

(1)肥厚爪(ひこうそう)・厚硬爪

爪の肥厚は、加齢や物理的な圧迫、足の変形などによって生じます。爪の厚みが増し、色が暗褐色や暗緑色などに混濁する場合もあります(図11)。角質が重積して爪の弯曲を伴うこともあります。
基本的に痛みはないためそのまま放置している方も多いですが、靴を履いた際に圧迫されて痛みが生じたり、見た目を気にして人前で足を出せなくなる方もいます。また、爪が切りづらくなることで爪のケアを怠りがちになり、さまざまな足トラブルにつながることも多いです。
日ごろからのケアでは、肥厚した部分を適切な厚さに削って形を整えます(Part5-5.肥厚爪、巻き爪、陥入爪、爪白癬のケア参照)。足に合った靴を選択することも大切です。

図11肥厚爪

(2)巻き爪・陥入爪(かんにゅうそう)

爪の両端が過度に内側に弯曲している状態が巻き爪です(図12)。爪が周囲皮膚を巻き込み、食い込んだ状態が陥入爪であり、痛みや炎症を生じ、悪化すると感染を伴って化膿したり肉芽を生じることもあります(図13)。
主な原因は深爪です。指の長さよりも短く爪を切ることで、爪が伸びてきた際にまわりの皮膚に食い込んだり、爪の弯曲の誘因となります。合わない靴による物理的な圧迫や、足の変形なども関係しています。
化膿や肉芽がある場合は、まずそれらに対する治療が必要です。そのうえで、正しい爪の切り方(Part5-4.爪のケア参照)を続けていくことで、症状の軽減と変形した爪の正常化をめざします。必要に応じて、ワイヤーなどの矯正器具での巻き爪の治療を行うこともあります。

図12巻き爪
図13陥入爪によって生じた肉芽

(3)爪白癬(つめはくせん)

白癬菌による感染症で、足白癬を長期間放置することで爪への感染へと至ります。爪や爪甲下の角質増殖による肥厚や、白濁、脆弱化がみられます(図14)。白癬菌が原因の場合、肥厚した爪を削るだけでは治療には結びつきません。難治性のため、抗真菌薬の外用や内服をきちんと続けることが大切です。そのうえで、足白癬と同様、清潔と他者への感染予防に留意しましょう。

図14爪白癬

〈参考文献〉

  1. 1.宮地良樹,真田弘美,大江真琴 編:最新版 ナースのための糖尿病フットケア技術.メディカルレビュー社,東京,2006.
  2. 2.日本フットケア学会 編,西田壽代 監修:はじめよう!フットケア.日本看護協会出版会,東京,2006.
  3. 3.西田壽代 監修:実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために.講談社,東京,2021.
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