Part1糖尿病の基本

東京歯科大学市川総合病院看護部
慢性疾患看護専門看護師
金井 千晴

一部会員限定
ページあり!

2023年5月公開

1.これだけは知っておきたい!糖尿病はどんな病気

1.糖尿病の全体像

糖尿病とは、インスリン作用不足による、慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群です。インスリン作用不足には、インスリン分泌量の不足(インスリン分泌不全)とインスリンの効きにくい状態(インスリン抵抗性)があります。これらは遺伝的体質以外にも、肥満や過食・運動不足といった生活習慣の乱れによって引き起こされます。インスリン作用不足により糖代謝異常だけでなく、脂質やタンパク質代謝も障害されます。

「平成28年度国民健康・栄養調査」の推計では、糖尿病が強く疑われる人(HbA1c≧6.5%)と糖尿病の可能性を否定できない人(6.0≦HbA1c<6.5%、糖尿病予備軍)は男性28.5%、女性21.5%でした1
著しい高血糖が持続すると、口渇・多飲・多尿・体重減少・易疲労感がみられますが、それ以外だと自覚症状が乏しいため、患者は病識をもちにくく、糖尿病が長期間放置されることがあります。また、高血糖症状があっても、単なる疲労や加齢によるものと勘違いし見過ごされやすいため、患者の自覚症状を丁寧に聞き取りし、高血糖症状が生じていることや糖尿病があることを認識してもらうことが必要です。

さらに極端な高血糖状態では、ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態を起こし、高血糖性の昏睡をきたす場合があります。慢性的に高血糖状態が続くと、神経障害・網膜症・腎症といった三大合併症が生じたり、動脈硬化を進行させて心筋梗塞・脳梗塞・末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)などの大血管症が生じ、患者のQOLを著しく低下させます。糖尿病性神経障害は慢性合併症として最も多く、糖尿病患者の30~40%が合併していると言われています。糖尿病網膜症は成人の失明原因の1つであり、年間約3,000人の中途失明者が生じています。糖尿病腎症は透析導入の原因の第1位であり、新規透析導入者は16,000人以上です。糖尿病足潰瘍の年間発症率は0.3%で、糖尿病足壊疽による足切断は非外傷性切断原因の第1位です。

「平成28年度国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人(HbA1c≧6.5%)のうち、治療を受けていない人は23.4%に及び、特に50歳未満の男性に未受診が多いとされています1。その理由として「痛みなどの自覚症状や特別な症状がないため」や「仕事あるいは家事が忙しいなどの時間的制約のため」が多く、医療者は糖尿病の早期発見・早期治療とともに糖尿病予防への働きかけが必要です。

2.糖尿病の分類

糖尿病と糖代謝異常の成因分類では、1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病があり、1人で複数を併せもつこともあります。糖尿病患者の90%以上が2型糖尿病であり、2~5%が1型糖尿病です。2型糖尿病は、遺伝的素因に過食・運動不足などの生活習慣が加わって発症するため、主に生活習慣への介入を行います。1型糖尿病は膵β細胞の破壊により発症し、インスリンが枯渇した状態のため、生活習慣への介入よりも血糖パターンマネジメントやインスリン自己調整の支援が中心となります。このように、1型糖尿病と2型糖尿病では中心となる介入がまったく異なり、2型糖尿病と混同されることへの不満や嫌悪感を抱く1型糖尿病患者が少なくありません。医療者は、1型糖尿病と2型糖尿病の違いを理解し(図1)、単に糖尿病患者ととらえるのでなく、病型まで把握することが必要です。1型糖病と2型糖尿病の特徴を表1に記します。

図11型糖尿病と2型糖尿病の違い
図1 1型糖尿病と2型糖尿病の違い

表1 糖尿病の成因による分類と特徴

横にスクロールしてご覧いただけます。

糖尿病の分類 1型 2型
発症機構 主に自己免疫を基礎にした膵β細胞破壊、HLAなどの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって起こる。他の自己免疫疾患(甲状腺疾患など)の合併が少なくない インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食(特に高脂肪食)、運動不足などの環境因子が加わって、インスリン作用不足を生じて発症する
家族歴 家系内の糖尿病は2型の場合より少ない 家系内血縁者にしばしば糖尿病がある
発症年齢 小児~思春期に多い。中高年でも認められる 40歳以上に多い、若年発症も増加している
肥満度 肥満とは関係がない 肥満または肥満の既往が多い
自己抗体 GAD抗体、IAA、ICA、IA-2抗体、ZnT8抗体などの陽性率が高い 陰性

日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.19,文光堂,2022.2

3.糖尿病の主な検査

糖尿病の早期発見や診断のために行う検査、血糖コントロールの良否を評価するための検査、糖尿病合併症の評価や早期発見のための検査などありますが、本稿ではアセスメントをするうえで必要な検査項目について述べます。

1血糖値
血糖値の判定基準は診断の項で述べます。空腹時血糖は10時間以上絶食後の血糖値です。随時血糖は来院時に任意の条件下で測定された血糖値です。食後血糖値は食事開始後の血糖であり、食事開始から何時間経過しているのかわかるように時間を併記します。
2血中Cペプチド(以下血中CPR)、1日尿中Cペプチド排泄量(以下、尿中CPR)
血中CPR、尿中CPRの測定はインスリン分泌能の評価に有用です。血中CPRは、空腹時おおむね1~3ng/mL、随時おおむね4ng/mL以上です。尿中CPRはおおむね40~100µg/日です。
3経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
糖尿病診断に用いられる検査で、すでに糖尿病と診断されている場合は原則行いません。採血はブドウ糖負荷前と負荷後30、60、120分後に行い、血糖値を測定します。実施上の注意点は以下のとおりです。
①糖質150g以上を含む食事を3日以上摂取する。
②前夜から翌朝検査実施までは10~14時間絶食する。午前9時頃から開始するのがよいとされる。
③検査終了まで水以外の摂取は禁止し、なるべく安静を保ち、検査中は禁煙とする。
4HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)

過去1~2か月の平均血糖値を反映する指標で、血糖コントロール状態の最も重要な指標です(図23。反面、HbA1c値では血糖値の日内変動など細かな変化が把握しにくく、血糖以外のHbA1c値に影響を及ぼす因子も少なくありません。基準値は4.6~6.2%ですが、糖尿病患者の血糖コントロール目標をめざします。また、高齢者では、高齢者糖尿病の特徴を踏まえ、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標に則って管理します(図3)。糖尿病は自覚症状が乏しい病気ですので、HbA1c値の推移を示してHbA1c値の振り返りをすることが、糖尿病の現状認識を高める支援になります。

図2血糖コントロール目標(65歳以上の高齢者については「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c)」を参照)
図2 血糖コントロール目標(65歳以上の高齢者については「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c)」を参照)

注1)適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2)合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3)低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4)いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。

日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,東京,2020:34.

図3高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)
図3 高齢者の血糖コントロール目標(HbA1c値)

注1)認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、日本老年医学会のホームページ(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/)を参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
注2)高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーⅢに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。
注3)糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が表の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。
【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意する。

日本老年医学会・日本糖尿病学会編・著:高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂,東京,2017:46より転載.

5グリコアルブミン
血清アルブミンとブドウ糖の結合物で、過去2週間の平均血糖値を反映します。基準値は11~16%です。HbA1cは高値なのにグリコアルブミンが良好な場合は、受診の直近だけ血糖管理を頑張っていた可能性があります。しかし、直近だけでも頑張れたことを支持し、このまま今の生活を維持できれば次回はHbA1cも改善が見込めることを伝え、自己管理のモチベーションアップを図ります。このように、血糖値・グリコアルブミン・HbA1cの3つを確認すると、患者の自己管理状況を類推することができます。
6尿糖
血糖値がおおむね170mg/dL以上だと尿糖陽性になりますが、SGLT2阻害薬を使用していると血糖値が正常でも陽性となります。尿糖検査は簡便に自己測定ができて、血糖コントロールの管理に有用です。検査前はまず排尿していったん膀胱内を空にし、30分後再度排尿し、この尿で検査します。正しい手順で実施しないと正確な結果が得られないため、取り扱い説明書をしっかり読んでから検査します。測定方法の指導だけでは不十分であり、得られた結果を生活にフィードバックし自己管理に活かせるよう指導します。
7尿ケトン体
インスリン作用不足により脂肪分解が亢進し生成されます。絶食や飢餓でも陽性になりますが、陽性の場合は糖尿病ケトアシドーシスを疑い対応します。
8尿タンパク・尿アルブミン
尿タンパク検査は糖尿病性腎症のスクリーニング検査として重要です。特に尿アルブミン検査は糖尿病性腎症の早期発見に有用です。ただし、糖尿病性腎症の病期分類の評価には、尿アルブミンのクレアチニン補正値が用いられます。

4.糖尿病の診断

初回検査で表2の①~④のいずれかを認めた場合は「糖尿病型」と判定します。

表2糖尿病の診断基準
1早朝空腹時血糖126mg/dL
275g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値200mg/dL以上
3随時血糖値200mg/dL以上
4HbA1c 6.5%以上

日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,東京,2020:24.

別の日に行った検査で、「糖尿病型」が再確認できれば糖尿病と診断できます。ただし、初回検査と再検査の少なくとも一方で、血糖値の基準を満たすことが必須であり、HbA1cのみの反復検査では診断できません。①~③のいずれかと④が確認されれば、初回検査だけでも糖尿病と診断してよいとされています。1回の検査で血糖値とHbA1c値がともに糖尿病型の場合、糖尿病と診断できます。

このように、糖尿病の診断基準を1回満たしただけでは「糖尿病型」にとどまるため、患者は「糖尿病の気があるだけで、糖尿病ではない」ととらえがちです。別の日の検査をしておらず糖尿病の診断に至らないケースがあるため、今までの検査歴を確認し、患者が正しく認識できるように支援します。

早朝空腹時血糖値110mg/dL未満および75gOGTT2時間値140mg/dL未満は「正常型」と判定します。「糖尿病型」にも「正常型」にも属さない場合は「境界型」と判定します(図4)。「境界型」には糖尿病の発症過程または改善過程にある症例が混在します。境界型は糖尿病に準ずる状態であり、食後高血糖を呈する境界型(IGT)は動脈硬化を促進する病態でもあります。よって、耐糖能異常の経過観察とともに生活習慣改善の支援が必要です。

図4空腹時血糖値および75gOGTTによる判定区分
図4 空腹時血糖値および75gOGTTによる判定区分

注1)IFGは空腹時血糖値110~125mg/dLで、2時間値を測定した場合には140mg/dL未満の群を示す(WHO)。ただしADAでは空腹時血糖値100~125mg/dLとして、空腹時血糖値のみで判定している。
注2)空腹時血糖値が100~109mg/dLは正常域ではあるが、「正常高値」とする。この集団は糖尿病への移行やOGTT時の耐糖能障害の程度からみて多様な集団であるため、OGTTを行うことが勧められる。
注3)IGTはWHOの糖尿病診断基準に取り入れられた分類で、空腹時血糖値126mg/dL未満、75gOGTT2時間値140~199mg/dLの群を示す。

日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,東京,2020:28.

引用文献

  1. 1.厚生労働省:平成28年度国民健康・栄養調査.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h28-houkoku.html(2022/12/22アクセス)
  2. 2.日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,東京,2020:19.
  3. 3.日本糖尿病療養指導認定機構:糖尿病療養指導ガイドブック2022.メディカルレビュー社,東京,2022.
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