Part1糖尿病の基本

東京歯科大学市川総合病院看護部
慢性疾患看護専門看護師
金井 千晴

一部会員限定
ページあり!

2023年5月公開

2.看護師が知っておきたい糖尿病治療法

1.治療目標とコントロール目標

糖尿病治療の目的は、糖尿病に伴う合併症の発症と進展を防ぎ、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持して、健康な人と変わらない寿命を確保することです。そのためには、体重・血糖・血圧・血清脂質などを良好な状態に保つことが重要です。細小血管症の発症・進展を予防するには、HbA1c7.0%未満をめざし、血糖値では空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満を目安にします。

長期間血糖コントロール不良の場合、急激な血糖値の低下により網膜症や神経障害などの合併症が悪化する場合があるので注意します。特に、進行した網膜症のある患者は、眼科医と相談しながら治療します。肝・腎障害のある患者や高齢者、重症の虚血性心疾患合併で薬物療法を受けている患者では、低血糖を起こさないよう薬物の量や種類に注意します。

2.治療方針の立て方

1インスリン非依存状態
2型糖尿病の大部分はインスリン非依存状態であり、初診時にすでに合併症もあることが少なくありません。糖尿病のコントロールとともに合併症をチェックし、合併症があればそれに対する治療も必要になります。インスリン非依存状態では自覚症状が乏しいため通院中断しがちです。患者が自分にある糖尿病を十分理解し、適切な食事療法と運動療法ができるよう支援します。生活習慣の改善を2~3か月続けても目標の血糖コントロールを達成できない場合には、薬物療法を行います。このように、治療の原則は食事療法・運動療法・薬物療法ですが、2型糖尿病では食事・運動療法を行ったうえでの薬物療法であり、「薬物療法をすれば自由に食べてよい」といった誤った認識は修正が必要です。
2インスリン依存状態
1型糖尿病が疑われるときは、ただちにインスリン療法を開始します。長期間良好な血糖コントロールを維持するためには、発症早期から強化インスリン療法が必要であり、糖尿病専門医との連携が望ましいです。発症直後の1型糖尿病患者では、強力な初期インスリン治療によりインスリン使用量が極端に減少し、血糖コントロールが安定する期間(寛解期、ハネムーン期ともいう)が得られることがあります。しかし、寛解期は長くは続かず、次第にインスリン量は増えていきます。1型糖尿病ではインスリン注射を中断せず、初期から十分なインスリン治療を継続することが必要です。

3.食事療法

食事療法は、インスリン依存状態、インスリン非依存状態にかかわらず糖尿病治療の基本です。食事療法の目的は、日常生活を営むのに必要な栄養素を摂取し、糖尿病の代謝異常を是正し、合併症の発症と進展を抑制することです。食事療法の基本は、適正な総エネルギー量の食事、栄養素のバランスがよい食事、合併症予防のための食事、規則正しい食事時間、生涯にわたって続けられる食事です。

食事を制限しすぎると栄養不足になり全身状態が悪化し、他の疾患が回復困難になったり、足壊疽など創傷治癒が遅延したり、高齢者ではフレイル・サルコペニアを引き起こしやすくなります。がんを併せもつ患者では食欲が低下していることも多く、食べたいものを食べられるときに食べて体力低下防止やQOLを維持するほうが大切です。何を優先すべきか考え、単に食事を制限することではなく、「健康長寿食」ととらえて健康的であるための適切な食習慣を習得できるようにします。

エネルギー摂取量は、標準体重×身体活動量で求めます。身体活動量の目安を表1に示しました。指示エネルギー内で、炭水化物、タンパク質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取できるようにします。エネルギー量の50~60%を炭水化物から摂取し、タンパク質は20%まで、残りを脂質とすることが一般的ですが、患者の病態や嗜好を考慮して変更します。『糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版』(図1)を使うと、指示エネルギー量を守りながらバラエティに富んだ食品を選ぶことができます。

合併症予防のために、アルコール摂取量は1日25gまでにとどめ、肝疾患などがある場合は禁酒とします。中性脂肪が高い場合は、飽和脂肪酸やショ糖(お菓子・ジュースなど)・果糖(果物)の摂りすぎに注意します。高血圧や腎症がある場合は、食塩摂取量を1日6g未満にします。

表1 身体活動量の目安

横にスクロールしてご覧いただけます。

軽労働(デスクワークが多い職業など) 25~30kcal/kg標準体重
普通の労作(立ち仕事が多い職業など) 30~35kcal/kg標準体重
重い労働(力仕事が多い職業など) 35kcal~/kg標準体重

標準体重=22×身長(m)×身長(m)

図1糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版(日本糖尿病協会、2013年)
図1 糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版(日本糖尿病協会、2013年)

4.運動療法

運動療法は、食事療法・薬物療法とあわせて糖尿病治療の3本柱です。運動によりエネルギー消費が増加して血糖値が低下したり(急性効果)、低強度でも長期間継続によりインスリン抵抗性を改善させる(慢性効果)などさまざまな効果があります(表2)。

表2 運動の効果

  • ブドウ糖、脂肪酸の利用が促進され血糖値が低下(急性効果)
  • インスリン抵抗性が改善(慢性効果)
  • エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善し減量
  • 筋萎縮や骨粗鬆症の予防
  • 高血圧や脂質異常症の改善
  • 心肺機能を高める
  • 運動能力向上
  • 爽快感・活動気分など日常生活のQOLを高める
  • ストレス軽減
  • 認知機能低下防止

運動の種類には、有酸素運動とレジスタンス運動があります。有酸素運動は歩行・ジョギング・水泳などの全身運動で、インスリン感受性を改善したり心肺機能を向上させます。レジスタンス運動は腹筋・腕立て伏せ・スクワットなどで、筋肉量を増加し筋力増強の効果が期待でき、基礎代謝量の維持・増加に大きな役割をもちます。

運動の強度は、一般的に中等度の有酸素運動が勧められます。中等度の運動は心拍数を目安とし、50歳未満では100~120拍/分、50歳以降は100拍/分以内にとどめます。不整脈などのために心拍数を指標にできないときは患者自身の体感を目安にし、「楽である」「ややきつい」がちょうどよい強度で、「きつい」と感じるときは強すぎる運動です。

運動の実施頻度は週3~5日以上、強度が中等度の有酸素運動を20~60分行い、週に合計150分以上運動することが勧められます。日常生活全体で約1万歩程度の歩行、消費エネルギーは約160~240kcalが適量です。食事で過剰摂取したエネルギーを、運動量を増やして消費するのは容易ではありません。食事療法をしっかり行い、病態やその日の体調に合わせて適度な運動を続けることが大切です。「運動で消費したエネルギー分だけ食事を増やせる」と考えるのは誤りです。

引用文献

  1. 1.厚生労働省:平成28年度国民健康・栄養調査.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h28-houkoku.html(2022/12/22アクセス)
  2. 2.日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,東京,2020:19.
  3. 3.日本糖尿病療養指導認定機構:糖尿病療養指導ガイドブック2022.メディカルレビュー社,東京,2022.
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