2023年5月公開
食事療法の指導は基本的に栄養士が行いますが、看護師も栄養士任せにせず協働することが必要です。栄養士は栄養学的な面からアプローチするのに対し、看護師は患者の一番身近な医療者として、患者の生活に即したアプローチを行います。理想的な食事療法から、より実践可能で継続可能な食事療法になるように折り合いをつけていきましょう。
食事療法の基本はPart1で述べたとおりですが、特に重要な項目を「食事の3原則」として挙げます(表1)。入院は、適正な食事を知る最大のチャンスです。入院して数日間病院食を体験したら、病院食と自宅食の比較を通して、今までの食生活を振り返りましょう。
表1 糖尿病食の3原則
主食量、副食量と内容、味付けの3項目を聞き、違いのあった部分が修正を要する点ですので、過不足を修正します。1回量の目安を視覚的に伝えるとわかりやすいので、宅配食を短期間利用することも有効です。食事をすると1~2時間で血糖値のピークを迎え、4時間経過するとほぼ食前血糖に戻ることから、食事時間が不規則な場合でも食間隔は4時間以上空けるようにします。欠食は、長時間空腹時間が続くことにより過食を招きやすく、また体への取り込みも増すため太りやすくなります。長時間のエネルギー不足は腎機能低下にもつながるため、軽食でも3食摂取するよう、具体的な食品を挙げて工夫の提案をしましょう。当院では、急激な血糖上昇を避けるためにタンパク質由来の食品を紹介することが多いです。主食、タンパク質の主菜、野菜類の副菜を毎食揃えバランスよく食べることが必要ですが、食事を簡単に済ませようとすると食物繊維不足になりがちで、食後高血糖を招きやすくなります。対策として、メカブやモズクなどパック入りで簡単に摂取できる食品を常備したり、冷凍野菜や常備菜を用意しておくとよいでしょう。食事が適切だったかは、血糖値やグルコース値を測定することで評価できます。
食事療法のコツは、患者の生活を具体的にイメージし、患者の生活に沿ったアドバイスをすることです(図1)。糖尿病患者は生活そのものが治療であり、食事は人間の基本的欲求の1つです。糖尿病食は健康食ですが、食事制限ととらえてしまうとストレスが強くなり長続きしなくなります。患者の嗜好・食習慣・ライフスタイルを尊重し、治療との折り合いをつけるよう支援しましょう。季節の味覚など季節特性や、特産品など地域特性を考慮することも大切です。
外食は一般的にカロリーが高く、野菜不足、炭水化物・脂質が多いなど栄養が偏っていて、味が濃いのが特徴です。店によってはゆっくり食べられず、早食いになりがちです。洋食はソースや肉の脂身などで、高カロリーになりがちです。中華料理は油を使ったものが多く、味が濃いので塩分過多になりがちです。和食は洋食・中華料理より比較的カロリーは控えめです。ファストフードは手軽ですが、栄養バランスが悪くメニューが限られるので調整しにくくなります。このような外食の特徴(表2)を踏まえて利用しましょう。
表2 外食の特徴
最近は、メニューにカロリー表示をしている店も増えていますので、なるべく表示のある店を選び、指示カロリーをもとに主食や揚げ物など一部残すようにします。上手な残し方が上手な食べ方と言えます。丼物はごはんが多いため定食を選びます。早食いを避けたり食事量の調整が頼みやすくなるため、落ち着いて食べられる馴染みの店を作るとよいでしょう。
中食(なかしょく)とは、惣菜や弁当、調理パンなどを購入し、家庭や職場などに持ち帰って食べる食形態のことをいいます。弁当や丼物はなるべく小ぶりのものを購入し、野菜サラダや野菜系の惣菜を追加するようにします。
外食・中食とも塩分過多になりがちなので、麺類のスープや漬物は残すようにします。外食や中食が頻繁だと血糖コントロールが乱れやすくなるので、例えば「外食は1日1食まで」などルールを決めるとよいでしょう。尿糖や血糖値を測定している場合は、食後2時間を目安に測定して食事を評価し、類似メニューを食べるときの参考にしましょう。
低血糖予防の補食が必要な場合以外は基本的に間食をしないことが望ましいのですが、間食がストレス解消やコミュニケーション手段になっていたりする場合があります。食べる楽しみは生活の潤いでもあります。そこで、一律に間食を禁止するよりも、“間食を減らすコツ”を紹介しましょう(図2)。これは、飲酒や喫煙にも応用可能です。
まず、間食はどんなときに食べるのか、間食にどのような価値があるのか、間食を続けることのメリット・デメリットは何かを患者と一緒に考えます。間食によるメリットよりもデメリットを強く感じるようになると、その習慣を変えやすくなります。そして、実践可能な目標を患者自身に設定してもらいます。この際は「間食をやめる」といった曖昧な理想論でなく、「次の外来まで○○する」など、最も実践しやすい方法を具体的に考えてもらいます。例えば、今まで煎餅を毎日5~6枚食べていたなら、2枚に減らすだけでも半分以下になります。具体的に何をするかを考えられなかったり目標設定が高すぎたりする場合は、看護師がいくつか提案し、その中から選択してもらいます。
①甘いものがやめられないとき
甘いもの嗜好が強くて甘いものの間食をやめられない場合は、甘いものによる血糖上昇を減らすコツを紹介します(表3)。「食間でなく、食事のときに食べましょう」と伝えて、内服薬やインスリンの作用時間内に少量摂取することを提案します。「成分表示を見て、『○○糖・水あめ・蜂蜜』とあるものは避けましょう」と伝えて、血糖上昇しやすい食品を把握してもらいます。また、人工甘味料で甘味欲求を代償することも有効です。人工甘味料や低糖質食品を紹介するときに販売場所も情報提供し、患者が実際に行動し生活に取り入れやすくします。間食を減らす場合、「量を減らす」のか「頻度を減らす」のか、どちらのほうが実行しやすく長続きしそうか患者に選択してもらい、「ちょっとがんばればできそう」な方法を提案します。
表3 甘いものによる血糖上昇を減らすコツ
②入院中に間食してしまう場合
入院中なのに間食してしまう患者の対応に苦慮することがしばしばあります。そのような場面では、患者を頭ごなしに注意するのではなく、「間食」という行動の奥にある患者の思いや考え、生活背景をとらえるようにします(表4)。間食による高血糖が主疾患の治癒遅延につながり、入院を長引かせる原因になりうるなど、間食による弊害を認識してもらいます。そのうえで、間食する理由に応じた対策を患者と考えます。口寂しさによる間食なら医師の許可を得たうえで0カロリー食品を紹介し、空腹感による間食なら指示カロリーの見直しを検討します。医師の了承の下で間食の許容範囲を設定することもあります。どんなものをどれくらい、どのタイミングで食べてよいことにするかなど、患者とともに具体的に考えます。医療者の指示でなく、患者主導でどの程度まで減らせそうか考えるといった意思決定支援は、治療の主体性を尊重することになり、自己決定したことは長続きしやすくなります。入院中であっても、このような生活調整をすることが看護師の役割です。
表4 入院中に間食する患者へのかかわり方
インターネットの普及により、私たちはさまざまな情報を簡単に入手できるようになり、情報過多な状況にあります。そのような中で、民間療法に傾倒している患者に出会うことがあります。その場合の対応法を表5に示しました。単に民間療法を否定するのではなく、まず患者に対して、話してくれたことへの感謝を示し、試したいという思いに理解を示しましょう。少しでもよくなりたい気持ちから民間療法を始めることが多いのですが、その思いの奥には、現在の治療に対する不安や不満が隠れていることがあります。そのうえで効果や安全性について情報提供し、担当医に相談することを勧めます。患者から医師へ話しにくいときは、看護師が代弁者になります。安全性に問題がなければ、基本的には患者の意向に沿いますが、治療は中断しないことを助言します。そして、試した効果や感想をともに振り返り、治療の妨げになっていないか見きわめましょう。
表5 民間療法をする患者への援助
多くの1型糖尿病患者はカーボカウントでインスリン調整を行っていますので、カーボカウントについても簡単に解説します。カーボカウントは、血糖コントロールに視点を置いた食事療法で、食後の高血糖を予防するために、食事に含まれる糖質量(カーボ)を見積もる(カウントする)方法です(表6)。
糖質による血糖上昇カーブと超速効型インスリンの作用時間が類似していることを利用し、糖質量に注目して、その量と血糖値に応じて食前のインスリン量を決定します。カーボカウント導入時のポイントは、食品のカーボ量を正確に把握することです(図3)。カウントが必要な糖質を含む食品を知り、主食やよく食べる食品の糖質量を知ることが必要です。品数が多い食事よりも、糖質量表記のある間食(おやつ)から始めるとわかりやすいでしょう。なお、炭水化物=糖質+食物繊維ですが、食物繊維は血糖を上昇させないので、炭水化物量のみ記載されている場合は炭水化物量≒糖質量とみなします。
表6 カーボカウントとは
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