2023年5月公開
糖尿病は患者のセルフケアのあり方次第で病状が安定したり悪化したりするため、医療者は「教育・指導」に走りがちですが、それは糖尿病看護の一部に過ぎません。「糖尿病をもちながら生活している人が病気と折り合いをつけ、その人にあった療養生活を見つけ継続できるように支援すること」が糖尿病看護の中心です。そのための患者教育であり、「指導」ではなく「支援」と考えます。筆者は常々糖尿病看護の2大柱として「生活者として患者をとらえる」「患者に沿う看護」を挙げており、これはセルフケア支援の核となります(図1)。
「糖尿病患者」ととらえると「患者なのだから管理すべき」という決めつけやレッテルを貼り、無意識のうちに偏見をもってかかわりがちです。「糖尿病をもちながら社会生活をしている人」ととらえることが必要です。その患者にはどのような生活史があるか、どのような生活をしているのか、その生活にどのような価値を置いているのか、その人らしい生活を続けるためにどうしたいと思っているのか、を把握することが、生活者としてとらえることにつながります。
単に患者の生活に沿うだけでは、病状の悪化を招きかねません。「患者に沿う看護」とは、患者の生活を尊重しつつ、その時々の病状や症状に沿い、心理状態に寄り添い、患者の自己管理や療養生活を支援することです。エンパワーメントに基づき患者の自己決定を支援し、スモールステップ法で患者のセルフケア能力の向上を図ります。“スモールステップ法”については後述します。
“エンパワーメント”の考えでは(表1)、患者は自分自身で問題解決する潜在的な力をもっており、自己決定しセルフケアしていける存在ととらえます。エンパワーメントアプローチでは、その人のもっている自分をケアする力を信頼して、それを引き出すようにかかわります。問題解決と意思決定、目標の設定は患者自身が行い、看護師は、患者が目標を達成するためにほかの方法や違った見方を見つけるための手伝いをします。
表1 エンパワーメントアプローチの5ステップ
石井均:糖尿病医療学入門-こころと行動のガイドブック.医学書院,東京,2011:221-224より作成
セルフケア支援を行う際は、初めから指導はしません。まず病気や治療への思い・感情を“伺い”、自分の病気や治療をどのように理解しているか“確認”し、必要に応じて補足説明します。これは「自分の状態を正確に知る」ことにあたります。そして、生活状況を“伺い”、血糖コントロールが改善・悪化する要因は何か“一緒に考え”、日常生活の中で血糖コントロールをよくするためにできそうなことは何か“一緒に考え”ます。次回外来までの具体的な目標設定を患者自身ができるように“支え”ます。これは「自分に合った長続きする療養方法を見つける」ことにあたります。ここからも「指導でなく支援」というのがおわかりいただけるでしょう。自分の状態を正確に知り、自分に合った長続きする療養方法を見つけることが、患者が糖尿病とうまくつき合っていくコツであり、看護師はこれを支援します。その人の生活をイメージしながら具体的にアドバイスすることが必要であり、「Best」でなく「Better」を求め、患者のトライ&エラーを支えましょう(表2)。
表2 糖尿病セルフケア支援の実際
セルフケア支援では、患者の思いや感情に注目し、患者の思いに応じたアプローチが重要です(表3)。病気や治療を受け入れがたい気持ちが強いときは、まずその気持ちを十分に聞き、心の負担感を軽減します。病気・治療に対する誤った知識やイメージがあるならば、正しい情報を提供します。治療の必要性を感じていない場合は、病気の基礎知識を提供し、治療の必要性を説明し、自分の病気の現状を知ってもらい、治療への動機づけを高めます。
「取り組む気持ちはあるが、どうしたらうまくできるかわからない」「自信がない」のならば、具体的な方法を検討し、時には提案します。患者自身で目標設定し、「これならできそうだ」と思える方法を一緒に考えます。理想的な方法ではなく、確実にできそうなことをまず設定し、それが達成できたら次の目標を設定します(スモールステップ法)。このようにして成功体験を重ね、自信をつけてもらいましょう。患者が自分で考えて自己決定していけるよう、看護師は患者のもつ力を信じ、待つ姿勢が大切です。
表3 患者の思いに応じたアプローチ
・患者自身で目標設定
・「これならできそうだ」と思える方法を一緒に考える→確実にできそうなことをまず設定し、それが達成できたら次の目標を設定する(スモールステップ法)
・成功体験を重ね、自信をつけてもらう
このように、患者の話を聴くことがセルフケア支援ではとても重要であり、たとえ患者が自己流の解釈をしても批判を加えたりせず、まずはありのままの患者を受け止めるようにします。自由に何でも話せる雰囲気を作り、患者の語りを聴くようにします(図2)。患者は、語るうちに自らの生活を振り返るようになり、問題点に気づいていきます。患者は看護師とのかかわりで、脅しのような印象を受けると心を閉ざしてしまうので、会話はポジティブシンキングな表現を心がけましょう(図3)。
糖尿病の学習支援は、まず患者の受け入れ状態を査定し、患者が一番知りたいと思っていることから始めます。知識(情報)提供の前に、病気や治療への思い・感情を把握し、病気や治療をどのように理解しているか確認することが必要です。病気を楽観視したり、あるいは病気への恐怖心が強すぎる場合は、その知識は単なる情報にとどまりがちだからです。「今一番、気になっていること・困っていること・心配なことは何ですか?」と問うことにより、患者がそのときに関心を寄せていることがわかります。患者は自分の関心があること、必要と思うこと、役に立つと思うことは、学習し取り入れます。
目標設定したら、どの程度なされたか一緒に評価し、次の目標を設定し行動修正します。短期間での成果を焦らずに、また、結果だけの評価ではなく、そのプロセスを評価します。目標設定・計画、実施、評価・修正のサイクルを繰り返すことによって、一生涯続く療養生活を無理なく長続きすることができるようになります。患者はトライ&エラーを繰り返しながら、より自分に適した療養方法を見いだしていくので、看護師は患者が病気とともに人生を歩んでいけるよう、患者や家族を支援します(表4)。
表4 目標設定の後
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