Part3糖尿病合併症の管理

東京歯科大学市川総合病院看護部
慢性疾患看護専門看護師
金井 千晴

一部会員限定
ページあり!

2023年5月公開

1.急性合併症と慢性合併症

糖尿病合併症には、高度のインスリン作用不足によって起こる急性合併症と、長年の高血糖によって起こる慢性合併症があります。どちらも患者のQOLや生命予後を悪化させるため、発症予防と進展阻止に努めます。糖尿病合併症もかなり進行しないと自覚症状が乏しいことが多く、自分に合併症があると信じたくない気持ちと相まって、合併症を認識しにくいのです。自分にあるもの、起こりうるものととらえられるように支援します(図1)。

図1糖尿病の合併症 しめじ
図1 糖尿病の合併症 しめじ

急性合併症には、糖尿病ケトアシドーシス、ケトーシス、高浸透圧高血糖、低血糖、感染症などがあります。慢性合併症は、心筋梗塞・脳梗塞などの大血管障害と、三大合併症と言われる糖尿病網膜症・糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害など細小血管障害があります。また、合併症ではないのですが、近年は認知症やがん、歯周病との関連も注目されています。神経障害の「し」、眼合併症の「め」、腎症の「じ」を合わせて、三大合併症は「し」「め」「じ」とすると覚えやすいでしょう。

ここでは、糖尿病ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖状態を簡潔に解説し、主に糖尿病性腎症の看護とフットケアについて述べていきます。

糖尿病の急性合併症

1糖尿病ケトアシドーシス(DKA)

極端なインスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加によって起こり、300mg/dL以上の高血糖、高ケトン血症、pH7.3未満のアシドーシスをきたします。1型糖尿病ではDKAが初発症状の場合があります。インスリン注射の急激な減量・中止、感染症、食事の不摂生(暴飲暴食)、手術、妊娠、大きなストレス、他疾患の併発(胃腸障害、心筋梗塞、脳梗塞)などが誘因になります。最近は、糖排泄調整系薬剤(尿に糖を排泄させて血糖値を下げる)であるSGLT2阻害薬の投与によって、高血糖がなくても糖尿病ケトアシドーシスが生じることがあります。まれに2型糖尿病、特に若年男性が清涼飲料水を多飲してDKAを発症することがあります(清涼飲料水ケトーシス)。

DKAの症状は、著しい口渇、多尿、体重減少、倦怠感、意識障害、消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛)です。身体所見では、クスマウル大呼吸、アセトン臭、血圧低下、口腔乾燥、眼球陥没などです。治療は、十分な輸液と電解質の補正、インスリンの適切な投与です。治療に伴う合併症として、低血糖、低カリウム血症、脳浮腫、肺水腫、心不全があります。DKAの回復後は、シックデイルールの教育や自己管理能力の向上などを支援し、DKAの再発を予防します。

2高浸透圧高血糖状態
非ケトン性高浸透圧性昏睡と呼ばれていましたが、ケトーシスを伴うこともあり、昏睡になることはまれなため、高浸透圧高血糖状態と呼ばれるようになりました。600mg/dL以上の著しい高血糖と高度な脱水により血漿浸透圧が上昇し、さまざまな程度の意識障害を呈します。高浸透圧高血糖状態は、DKAのような特異的な症状は乏しく、倦怠感、頭痛、消化器症状です。高齢の2型糖尿病患者に多く、感染症、脳血管障害、手術、高カロリー輸液、経管栄養、利尿薬やステロイド投与などが誘因になります。高齢者の口渇感の低下も病状悪化の一因です。治療は、脱水や電解質の補正とインスリンの適切な投与です。治療が遅れるとショックや腎不全などで死亡することがあり、予後はDKAより不良です。
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