COVID-19対応も基本は同じ!
高齢者施設での感染対策の実際

医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院
看護部長/感染管理認定看護師
小澤美紀

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2021年2月公開

Part2感染対策の基礎知識をおさえておこう

1.感染と感染症

入所者・利用者や職員を取り巻く環境中には、目に見えない細菌やウイルス、真菌(かび)など多くの微生物が存在しています。そのうち病気の原因となるような微生物を「病原体」と呼びます。その病原体が人のからだに入り込んで増殖した状態を「感染」といいます。さらに、感染した後に発熱や下痢など何らかの症状が出現した状態が「感染症の発症」です。つまり、病原体に感染したら必ず感染症を発症するのかというと、そうではないということです。

ノロウイルスを例にあげると、ノロウイルスに感染したけれどもまったく症状が出ない人は30%の割合であったという報告があります1。これは、約3人に1人はノロウイルスに感染しても症状が出ないということです。また、新型コロナウイルスにおいても、検査で陽性となった無症状陽性者が多く存在していることも周知の事実です。

このように、病原体に感染しても何の症状も現れない人を、「不顕性感染者」あるいは「保菌者・キャリア」と呼びます。不顕性感染者は、感染していることに気づかずに病原体を排出して感染を拡げる感染源になってしまうリスクがあります。そして、「無症状の人から受けた感染だから、うつされた人も無症状」ではなく、中には重症化してしまう人もいます。

2.感染のしくみ

感染は、病原体が存在する感染源から、感染経路を通り、次に感染を受ける人のからだに入り込んで増殖して起こります。つまり、①感染源、②感染経路、③宿主(ヒト)の3つの要素が揃ったときに感染が成立します(図1)。

図1感染成立の3要素

1感染源(病原体)

以下のものには病原体が存在し、感染源になる可能性があります。

  1. 1排泄物・嘔吐物(例:尿・便など)
  2. 2血液・体液・分泌物(汗は除く)(例:鼻汁、喀痰、目やに、傷口からの膿など)
  3. 3使用した器具・物品(例:注射針、鑷子など)
  4. 4上記①~③に触れた手指で取り扱った食品など

2感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染

病原体が、感染源から次に感染を受ける相手にうつっていく経路です。主な感染経路は、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つがあり(図2)、高齢者施設ではさらに血液媒介感染にも注意します。

図23つの感染経路
1空気感染
咳やくしゃみなどをしたときに病原体を含んだしぶき(飛沫)が飛散し、そのしぶきの水分が蒸発して小さな粒子(飛沫核)になって空中に漂います。その飛沫核を吸い込んで感染します。飛沫核は病原性を保ったまま長時間漂うことができるため、遠くまで浮遊します。空気感染経路をもつ主な感染症は、結核、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)などです。
2飛沫感染
咳やくしゃみ、会話などで病原体を含んだしぶき(飛沫)が飛散し、鼻腔や咽頭粘膜から吸い込んで感染します。飛沫は通常1m程度飛散しますが、咳をすると1.5m、くしゃみをすると3m程度飛ぶといわれています(図3)。飛沫感染経路をもつ主な感染症は、かぜやインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などです。
図3飛沫と飛沫核の違い
3接触感染
人や環境、物に触れることによって感染します。病原体を持っている人と直接接触することで感染する「直接感染」と、汚染した環境箇所や器具などを介して感染する「間接感染」があります。接触感染経路をもつ主な感染症は、疥癬、感染性胃腸炎、多剤耐性菌感染症、新型コロナウイルス感染症などです。
4血液媒介感染
血液が傷や粘膜に付着することによって感染します。血液媒介感染経路を持つ主な疾患は、B型肝炎、C型肝炎などです。

3宿主(ヒト)

感染を受ける人を「宿主」と言います。病原体の量や強さ(毒力)と感染を受けた人のからだが備えている抵抗力・免疫力(病原体から身体を守ってくれる防御システム)のバランスによって、感染・発症・重症化するかしないかが決まります。一般的に、高齢者は抵抗力・免疫力が低下するため感染を受けやすく、感染症を発症すると重症化しやすくなっています(図4)。

図4感染・発症・重症化はバランスが決め手

文献

  1. 1.CDC: “Norwalk-like viruses”. Public health consequences and outbreak management. MMWR, 50(RR09), 1-18 (2001).
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