医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院
看護部長/感染管理認定看護師
小澤美紀
2021年2月公開
Part13特に気をつけたい感染症とケアの実際②:ノロウイルス、疥癬
1.ノロウイルス感染症(胃腸炎)
1特徴
- 病原体:ノロウイルス。嘔吐物1g中に100万個、糞便1g中に1億個のウイルスが含まれていると言われる。感染力が強く、少ない量(10個~100個程度)でも発症する
- 潜伏期間:12~48時間
- 感染経路:①汚染された食べ物を介した経口感染、②嘔吐物や便からの飛沫を吸入することによる飛沫感染、③嘔吐物や便に汚染された環境面などとの間接的接触感染、④嘔吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために、残ったウイルスを含む小粒子が空気中に舞い上がり吸い込んで感染する空気感染(塵埃感染)
- 症状:吐気、嘔吐、腹痛、下痢、発熱。症状が治まった後も、便中にウイルスが3週間以上排出されることがある
2感染対策
- 標準予防策に加えて、飛沫感染予防策、接触感染予防策で対応します。アルコールによる消毒効果は弱いため、手指衛生は液体石けんと流水による手洗いを行います。
- 突然嘔吐した入所者の近くにいた人は飛沫を吸い込んでいる可能性があるため、潜伏期24~48時間を考慮して様子をみます。
3ケアの実際
- 1居室
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- ノロウイルス感染症を疑う(および診断された)場合は、個室に隔離します。隔離ができない場合は、カーテン隔離などを行います。
- 複数の入所者にノロウイルス感染症の疑いがあり、個室が足りない場合には、同じ症状の人を同室とします。
- 症状が消失したら個室隔離を中止します。
- 2食事
-
- 個室で食べます。
- 食器は可能であれば厨房に戻す前、食後すぐに0.1%次亜塩素酸ナトリウム液に浸漬し、消毒します。食器の下洗いをした場所も0.02%次亜塩素酸ナトリウム液で消毒します。
- 3排泄
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- 個室にトイレがなく、施設内の共用トイレを使用する場合には、感染症にかかっている入所者とかかっていない入所者・職員のトイレは必ず分けます。感染者が使用したトイレは、手すりやトイレットペーパーホルダー、ドアノブ等、そのつど0.02%次亜塩素酸ナトリウム液で清拭します。
- 症状が消失した後も、便中にウイルスの排出が3週間以上続くと言われているため、その間は排便後に0.02%次亜塩素酸ナトリウム液で清拭します。
- 4入浴
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- 症状が落ち着いて、入浴できる状態であれば、1週間くらいは最後に入浴します。
- 使用後は、通常に清掃を行ったあとに0.02%次亜塩素酸ナトリウム液で消毒します。
- 5清掃
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- 施設内の高頻度接触表面は、0.02%次亜塩素酸ナトリウム液で清拭します。
- 6リネン類
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- 汚染したリネンを扱うときには、手袋、マスク、エプロンを着用します。
- 汚染したリネン類で周囲を汚染しないように、ポリ袋等に入れます。
- 汚物を落とした後、0.1%次亜塩素酸ナトリウム液に30分以上浸すか、85℃・1分以上熱湯消毒した後、他のものと分けて洗濯します。消毒を行わずに洗濯すると、洗濯機にウイルスが拡散してしまいます。
- 布団などすぐに洗濯できない場合は、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機などを使うと効果的です。
- 7嘔吐物処理
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- 嘔吐物処理の際には、「作業者自身が感染しないこと」、「汚染を広げないこと」、「消毒を確実に行うこと」に注意して行います。
- 嘔吐物処理の具体的な方法について、表1に示します。
表1嘔吐物処理の実際
- 1近くにいる人を移動させる職員と、嘔吐した入所者に対応する職員の応援を求める。嘔吐した入所者に対応する職員は、手袋、サージカルマスク、ガウンを着用する
- 2窓を開け、換気する
- 3物品を準備する
- 4手袋、ガウン、N95マスク、ガウン、シューカバーを着用する
- 嘔吐物処理ではノロウイルスが乾燥して飛沫核として浮遊するリスクがあるため、網目の細かいN95マスクを着用する。N95マスクがなければサージカルマスクを2枚重ねで着用する
- シューカバーがなければ大きめのビニールで靴を覆う
- 5汚物全体にペーパータオルや新聞紙等をかぶせる
- 6その上に0.1%次亜塩素酸ナトリウム液をかける
4予防策
- 食事の準備や食事の前、トイレの後、いろいろな物に触れた後、外から施設内に入るときなど、液体石けんと流水による手洗いを行います。
- 平常時から嘔吐物処理をイメージし、可能であれば実技訓練を行っておくことが望ましいです。
2.疥癬
1特徴
- 病原体:ヒゼンダニ(疥癬虫)
- 潜伏期間:通常の疥癬は感染して1~2か月。角化型疥癬(ノルウェー疥癬)は4~5日
- 感染経路:通常疥癬は、人の肌と肌の接触で感染する。角化型疥癬は、落屑が付着したリネン類の共用や落屑が飛散して感染する
- 症状:通常疥癬は、頭と首を除く全身に赤いブツブツ(小丘疹)や小豆大のしこり、激しいかゆみ。「疥癬トンネル」と呼ばれる特有の皮疹が特徴的で、手のひらや指の間に多く見られる。角化型疥癬は、頭と首を含めてほぼ全身にざらざらした牡蠣の殻のような角質肥厚の症状が出ることが特徴的。かゆみの程度はさまざまで、まったくない場合もある
2感染対策
- 標準予防策に加えて、接触感染予防策で対応します。通常疥癬と角化型疥癬ではケアの対応が異なります。
3ケアの実際
- 通常疥癬と角化型疥癬に分けて、ケア方法を示します(表2)。
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