患者さんの“できる”が増えるリハビリテーション
生活再建に向けて、病棟から在宅へつなげるケア
令和健康科学大学 リハビリテーション学部 学部長/
カマチグループ関東本部 リハビリテーション関東統括本部長
稲川 利光
2022年5月公開
私自身がリハビリテーションを行ううえで非常に大切なアプローチと考える「手を添える」ということについてお話しします。
(1)「やってしまう介助」ではなく「促す介助」
(2)患者さんの能動的な動きを促す介助
できない行為を代行して介助してしまうのではなく、「できない部分を補うために手を添える」ということが、患者さんのできる行為を増やしていくと感じます。介助してやってしまったほうが手っ取り早い、ということは多々ありますが、ご本人の能力が高まるような介助でなければ何のためのリハビリテーション看護なのかわかりません。「やってしまう介助」ではなく、「促す介助」が大切だと思います。
ここで、食事介助の場面を例に「手を添える」ことの意味を考えてみたいと思います。図2は脳卒中で右片麻痺を呈した患者さんに介助者が食事を提供している場面です。背上げした状態で患者さんは介助者に介助されてベッド上で食事をしています。このような食事介助は、どの病院や施設でもよく見かけることです。患者さんは、口まで運ばれてきたスプーンに対して口を開くだけです。介助者が嚥下食を口の中に入れてくれるので、後は飲み込むだけ······患者さんはあまりに依存的ですね。上体も後方に引けていてベッドの背にもたれたままの状態です。
介助者に介助されてベッド上で食事をする患者さん。口まで運ばれてきた食事に対して口を開くだけであり、介助に依存的な食事といえる。
(写真はご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。)
図3の患者さんも、 図2の患者さんと同じような右片麻痺の患者さんです。患者さんは右手でスプーンを把持できず、口まで運ぶだけの上肢の筋力がありません。そこで、左側の写真では、介助者が患者さんの右手に手を添えて、患者さんがスプーンを把持したような状態で口に運ぶように介助しています。この介助は、患者さんが自分で口に運ぼうとする動作を促しており、患者さんは自然に上体を前に乗り出しています。つまり、手に手を添えることで患者さんの能動的な全身の動きが引き出されるということです。
図3の右の写真は牛乳パックをストローで飲む場面です。患者さんの健側の左手を介助者が補助することで、麻痺のある右手の動きが促されている瞬間です。片手では無理でも両手だと行える行為は多々あります。ここでは介助者は右手が使いやすくなるように右の肘の部分を支えるように手を添えています。
図3能動的な食事
右片麻痺の患者さん。介助者は手を添えて患者さん自身が自分で食事をしているように介助する。患者さんは自分の手に持ったスプーンが口に近づいてくるので、それをとらえようと上体を前に乗り出してくる。
(写真はご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。)
「手を添える」ことは、食事の場面に限らず、更衣、整容、排泄、入浴など、あらゆる生活行為の場面で必要です。患者さんを受け身ではなく能動的な状態に促すために手を添えます。「治療は手当」ですが「介助は手添え」なのです。
手を添えながら、患者さん自身の能動的な動きを待ちます。まずは可能な範囲でよいと思います。できないことを代行するのではなく、できない部分に手を添える。それは介助者の心を添えることでもあろうかと思っています。手を添えて、心を添えて、患者さんにできることを増やしていく、そんなかかわりを大切にしたいものです。
「手を添える介助」は、図4のようにベッドから椅子に移乗した状態で行うとより効果的な全身機能の改善につながります。手に手を添えて介助すれば、患者さんはそれを食べようと身を乗り出すため、能動的な座位姿勢が促されます。良好な座位保持が手を添えることで可能となるのです(座位の重要性については、Part4で詳しく解説しますので参照ください)。
図4椅子に座った状態での食事
右片麻痺の患者さん。家族に「このような介助もあります」と方法を指導し、実際に行ってもらっているところ。お父さんが普段食べているように娘さんは手を添えると(写真左)、お父さんは自分で食事をとらえようと上体を前に乗り出された(写真右)。いつも食欲がない方だったが、娘さんに手を添えられこのときは完食された。また、右手の動きを促すと同時に、座位の安定化に向けた訓練にもなった。
(写真はご本人・ご家族の同意を得て掲載しています。)
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