看護師が行うアセスメントやケアの方法を、様々な角度から解説しています。
保健学博士、保健師・助産師・看護師
コンチネンスアドバイザー
榊原千秋
2021年8月公開
みなさんは、自分でおむつを当ててその中で排泄をしたことはありますか?これは、排泄の課題が一気に自分ごととして向き合うことができる体験ですので、支援者としておむつケアにかかわる人にはぜひ取り組んでいただきたいです。私も何度かチャレンジしています。布団に横になっておむつの中で排尿を試みたのですが、漏れるような気がして布団の中ではできなくて、おむつを当てたままトイレに座って排尿しました。排尿した直後は生あたたかいのですが、次第に冷たくなってお尻全体に尿を感じ、いてもたってもいられなくなってあわてておむつを外しました。おむつを当てている姿を家族に見られたくなかった気持ちや、自分が汚したおむつを後始末するときに感じた何ともいえない情けない気持ちなど、体験してみたからこそ気づけたことがたくさんありました。
いまから2年ほど前に、私の父が重症の心不全で緊急入院となりました。私は急いで仕事や家のことを整えましたが、病院に向かえたのは、連絡を受けてから1週間も過ぎたころでした。父は酸素療法と点滴がつながれ、おむつを当てていました。
床頭台に質のよいおむつが並べられているのを見て、「排泄ケアに積極的に取り組まれている病院かな」と思いました。父は、私が排泄を得意とする看護職であることを知っているので、私の顔を見るなり、「看護師さんに、おしっこが出たのでおむつを換えてほしいと言ったら、『あと2回だいじょうぶですよ』と言われたんや。どう思う?」と聞いてきました。父のおむつを見ると、昼間なのに夜用のパッドが当てられていました。しかし、父はすでに安静の時期を終えて、リハビリテーションで立ったり座ったりもできるようになっていました。そして、尿が出たこと、尿意があることもわかりましたので、看護師にお願いして、ベッドサイドにポータブルトイレを置いてもらうことにしました。父は、4~5日後にはトイレで排泄できるようになって一気に元気になり、その後、愛犬の散歩ができるくらいに回復しました。あの日のおむつからの離脱は、父の回復の分岐点だったと思います。
つい最近も、ある施設の方から、1日のおむつ交換を定時交換で3回に減らしたらおむつ費用が減ったということを、上司から評価されたという話を聞きました。
ケア職や看護職の方に、患者さん(利用者さん)に「尿意や便意の訴えがあったとき、『おむつを当てていますので、だいじょうぶですよ』と言ったことがありますか?」と聞くと、8割以上の人が「あります」と答えました。しかし、前述のおむつ体験をすると、安易に「おむつをしているので、だいじょうぶですよ」とは言えなくなるでしょう。
排泄ケアは、在宅介護や高齢者施設において日常的に行われるケアの一つです。一方、排泄は、誰にとっても、とてもプライベートな行為です。「気持ちよく出す」ことは、排泄の主体を本人に取り戻すことです。
医療や介護の現場での「排便ケア」は、便秘や下痢といった排便障害を抱えて困っている人との出会いから始まりますが、便秘や下痢の人がケアの対象になった途端に、「排便管理」や「排便コントロール」という言葉で、医療看護側の支配が始まります。まずは、そのことに気づくところから排便ケアのあり方を見直してみませんか?
気持ちよい排便に導くためには、食事・移動・薬剤・精神的ケアなど、排便ケアの共通言語を持ったチームアプローチが必要です。このために、適切なアセスメント、排便ケア方法が選択できケアを継続的に組み立てられる、排便ケアのプロフェッショナルが求められています。
排泄ケアは「気ばたらき」です。その場の状況に応じた気遣いや気配りができるためには、見る軸が求められます。
私たち支援者の価値観は、暮らしている地域やジェンダー、その時代の価値観にも影響を受けます。「ぶれない軸とゆらぎをいつも意識していたい」という思いを込めて、うんこに「文化」をつけ、「うんこ文化センター」としました。
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