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2023年6月公開
精神疾患を抱える人への対応で、訪問看護師が心がけるべきこと
東 美奈子
訪問看護 花の森 管理者
東 美奈子
訪問看護 花の森 管理者
訪問看護師は、利用者自身が生きる場所で活き活きと自分らしく暮らすことができるように、利用者と話し合いながら、一緒に伴走していくことが必要です。つまり、訪問看護師は「ともに歩む姿勢」でいることが大切で、けっして「看護をしてあげている」とか「支援してあげている」というような意識を持たないことが重要です。
訪問看護を行う専門職としての理念は、以下のようなものです。
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この理念を実践するためには、まず、訪問看護師は利用者の夢・想い・気持ちをしっかり聞くことから始めます。そして、利用者自身の自己実現や生き方を尊重して実現に向けて一緒に考えていきます。何よりも大切なことは「利用者自身の力を信じること」です。その過程の中で利用者と訪問看護師の信頼関係も構築していきます。
地域で生活するということは、さまざまなストレスがあります。ストレスともうまくつき合えるような方法、そしてストレスとの向き合い方についても一緒に考えていくことが大切です。利用者を精神疾患患者としてみるのではなく、ともに生きる一人の人として捉え、「ひと対ひと」としてのかかわりをすることが必要です。
それでは、看護師としての専門性はどこで発揮したらよいのでしょうか。看護師としての専門性は、アセスメントをするときや多職種連携の中で利用者理解をするときに発揮されます。訪問看護師は、地域で支え切る覚悟を持つことも大切です。必要な医療は受けるべきですし、時には、必要な入院もあるかもしれません。しかし、利用者より先に訪問看護師が地域での生活をあきらめてはいけないと思います。どうすれば、今の暮らしを続けていけるのかを利用者と一緒に考え工夫することです。「地域で支えきる」覚悟を持ってケアしていきましょう。
訪問看護師の強みは、自宅に訪問するため、利用者自身が生活の中で大切にしているものや生活スタイルが見えてくることです。つまり、生活の場でストレングス視点を活かした支援ができるのです。また、利用者自身の生活状況の中で、精神状態の変化も見えてくるので、病状の変化が観察しやすいという強みもあります。例えば、「最近調子が悪いみたいですので、観察をお願いします」と他機関のスタッフから言われたとしましょう。訪問看護師は、訪問したときに、洗濯物の干し方や家の掃除の状態、利用者自身の服装や保清の状況などを観察します。病状が悪くなっていれば、いつもと違う利用者の様子や生活環境が見えてきます。逆に生活の様子が変わらなければ、病状の悪化はあまりないといえます。このように生活の場に行くからこそ見えてくる生活の変化に気づきやすいことは訪問看護師の強みです。しっかり生活の中でアセスメントをして、症状悪化を早期発見して早期介入をしたり、回復を促していきましょう。また、利用者自身の気づいていないストレングスを見つけて利用者自身が自己肯定感を高められるような看護を展開していきましょう。
*ストレングス(strength)とは、「強さ、力」の意味で、「対象者の誰もが持ち、対象者をプラスに変化させていく力」と定義される。ストレングスモデルは、その人が元来もっている「強さ、力」に着目して、それを引き出し、活用するケースマネジメントの理論・実践の体系である。
訪問看護師が常に心がけることは、自分は利用者の生活の場におじゃましている存在であることを意識しておくことです。看護を展開する場が生活の場ですから、利用者が主人で、訪問看護師は客の立場です。招かれざる客にならないようにしなければなりません。そのためには、車(自転車やバイクも含む)を止める場所も確認することが大切です。住宅街などでは、利用者は家の前に車を止めてよいといっても近隣から苦情がくることもありますから、気づかいが大切です。どうしても道路に駐車しなければいけない場合などは、連絡先を示すものをダッシュボードの上に置いておいたりする工夫もできますし、あらかじめ警察に届けを出しておくこともできます。利用者によっては、自分の家に訪問看護師が来ていることを近所の人に知られたくない人もおられますから、事業所名を書いてない車のほうがよい場合もあります。また、訪問看護師の服装や玄関先での名乗り方や声のかけ方なども気にされる方がおられます。訪問看護導入時に利用者とどのようにしたらよいかを具体的に確認しておくことが大切です。訪問看護師が利用者の生活や話し方等のペースに合わせながら、看護を展開していくことも重要です。
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