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2023年6月公開
精神疾患患者への訪問看護師の対応の基本
1.リカバリー視点
東 美奈子
訪問看護 花の森 管理者
東 美奈子
訪問看護 花の森 管理者
精神疾患を抱える人には、中途障害であるがゆえの苦しみがあります。「高校のときは成績優秀で家族や親族から将来を期待されていたのに、こんな病気になってしまったから」とか「自分はこんな病気になってしまったから、就職もうまくいかないし結婚もできなかった」という言葉をよく耳にします。つまり、あるときから、突然に想像していなかったことが起こり、自分の人生設計が変わってしまった、こんなはずじゃなかったのにという感情を持っている方が多いということです。利用者自身が発病によって失ってしまったものがあると考えているため、疾患や障害によって失ったものを回復させることが重要になり、その過程に訪問看護師はつき合うことが必要になります。
失ったものとしては、①機能、②自尊心、③生活、④人生、などが考えられます。
失った機能の受け入れは、疾患の理解や自分の疾患や障害について自分がわかるように説明を受け、理解したうえで自分の状態を受け入れるということです。訪問看護師には、利用者の疾患理解を促すかかわりも重要です。主治医がどのように利用者に病状を説明しているのかを把握し、利用者自身がわかりやすいように説明しましょう。利用者自身が頭ではわかっていても気持ちがついていかないこともあります。受容してもらえるように、じっくり時間をかけてかかわることが大切です。
また、内なる偏見の解消も必要です。偏見といえば、周囲の人の偏見に目が向きがちですが、利用者自身のなかに自分の精神疾患に対する偏見があることがあります。この偏見を少なくするためにもピア*の力を借りながら、自分に向き合っていけるように働きかけましょう。リカバリーのスタートはこの受容からといっても過言ではありません。さらに、看護師は社会的偏見の解消にも力を尽くさなければなりません。そのためには、自分の身近な人から精神疾患に対する理解を深めてもらえるように働きかけることが必要です。
*同じような立場や境遇、経験等を共にする人たち
精神疾患を抱えている人は、中途障害であるがゆえに自尊心が低下していることがよくあります。自分に自信を持てない人や自己肯定感が低い人が多くおられます。ありのままの自分を受け入れることができず自分を否定したり、悪い部分や欠点ばかりが意識化されて自分自身を肯定的に受け止めることができにくい状態になっているのです。何をしてもうまくいかないのは「病気のせい」「障害のせい」と言われる方も多くいます。いくら褒められても「なぜ褒められているかわからない」という人が多いため、褒めるときには何がどのようによかったのかをその場で具体的に言って褒めることが重要です。また、自分より年上の利用者に対しては、褒めるというよりも、感謝の言葉を述べるようにしたほうがよいでしょう。新人の訪問看護師が先輩の真似をして話したら、利用者に怒られたというエピソードもよくあります。常に相手を尊重したかかわりをすることが大切です。
生活面では、病気や障害によって起こる生活のしづらさがあります。訪問看護師は、利用者の生活状況を観察することはもちろん、利用者自身が感じている生活のしづらさについてしっかり聴くことが大切です。
(1)服薬のこと
服薬状況によって生活がしづらくなっている場合もあります。例えば、寝る前に飲む薬が朝残っていて起きにくいとか、薬の副作用で手が小刻みに震えて包丁が使いにくいなどです。服薬パターンと生活パターンが合っていない場合もあります。朝食を食べないため朝食後に薬が飲めないとか、職場で他の人と一緒に昼食を食べるので昼食後に薬が飲みにくいなどのこともあります。副作用が生活に与える影響等も含めて利用者自身の話を聴き、工夫できることを一緒に考える姿勢が大切です。服薬パターンが生活パターンと合っていない場合は、主治医と相談することも必要です。利用者が主治医にうまく伝えられない場合は、訪問看護師が伝えることも重要なケアの1つです。
(2)生活する場所
音に対して過敏な人の生活の場や、歩行状態や生活環境なども重要です。個々の利用者が生活しやすいかどうかを把握して検討することが大切です。場合によっては、生活環境の整備も必要になるでしょう。同時に、「生活の質」も考える必要があります、利用者自身の希望に添って少しでも生活がしやすくなるような工夫をともに考えることです。必要に応じて生活リハビリや住宅改修など他職種の力を借りることも必要になります。
また、季節の花を飾るとか、季節に合ったものを生活の場に置くなど、ちょっとした工夫で生活が豊かになったりすることもあります。今まで経験していなかったことは気づきにくいものですが、ちょっとした気づかいをして、提案してみることで気づく場合もあります。訪問看護師が生活の中に新しい風を吹き込むことが大切なのです。いずれにしても利用者自身の希望をしっかり聴くことからスタートしましょう。
人生は、利用者自身が生きてきた歴史とこれからのことです。生活歴を聴く中で利用者自身のよかった時期と悪かった時期についてしっかり聴きましょう。よかったときは何がよかったのか、これから何をしたいのか、どのように生きたいのかなどを聴いていきます。
自己肯定感が低いときには、「何もしたくない」「よかったことなんかなかったし、これからもない」などとあきらめたような言葉しか出てこないこともあるかもしれません。そのような言葉が出たときには、その気持ちに共感しながら話を聴きましょう。無理に前向きなことを訪問看護師から提案する必要はありません。
ここまで述べてきた「自尊心」「生活」「人生」は、回復可能な部分です。ゆっくり時間をかけて利用者自身の気持ちと向き合い、まずは、訪問看護師自身が、これらのことは回復できることを信じてかかわることが大切です。そして、少しでも回復したら、それを訪問看護師自身が喜ぶことが重要です。利用者は自分自身では気づかないことも多いので、訪問看護師のあなたが言葉にして喜びましょう。一つ一つの回復過程を認めながらともに喜ぶ仲間を作ることが大事なのです。ここで大切なことは、利用者自身が「自分は病人である(精神障がい者だ)という意識」から「自分は病気を持っている(精神障害による生活のしづらさがある)という意識」に変わることです。つまり、利用者が「自己を取り戻す認識に変化すること」が大切です。そのためには、看護師が利用者の想いを聴き、寄り添いながら、回復過程をともに歩んでいきます。目指すところは、「社会に面倒を見てもらっている存在」から「社会の一員として貢献する存在」になっていけるように自律支援(内的要素での独り立ち)を行うことです(図1)。そして、ゆくゆくは訪問看護からの卒業も視野に入れておきましょう。
図1 リカバリーの構図
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