Part5認知症の人へのACPの進め方

群馬大学大学院保健学研究科 教授
内田 陽子

2026年4月公開

2.ACPを引き出すための考え方とコミュニケーションスキル

ここからは、認知症の人のACPを引き出すための考え方や具体的なスキルを紹介していきます。
まずは、認知症の人への基本的な意思決定支援のための配慮を表1に示します。これらを前提とし、さまざまなコミュニケーションの工夫を取り入れていきます。

表1 認知症の人への基本的な意思決定支援のための配慮

周りの環境への配慮 ・室温、騒音
本人への配慮 ・眼鏡・補聴器などを用いて感覚器を補う
・表情・受け答え・体調の確認
支援者の配慮 ・時間帯・場所、助ける人がいるか
・態度、コミュニケーション力
・提供する情報をわかりやすく提示・説明
  • (1)認知症の人の意思決定は、その場ですぐにできるものではない
  • (2)相手に合わせてもらうのではなく、自分が合わせる
  • (3)相手の視点に立ち、認知的共感を心がける
  • (4)“無意識の自分”を意識する
  • (5)ポジティブな言葉・感情を共有する
  • (6)媒体を介してコミュニケーションをとってみる
  • (7)デザインの共有~医療処置や人生の段階を視覚的に伝える
  • (8)まとめ:ACPのコツ~療養者の意思を尊重する

(1)認知症の人の意思決定は、その場ですぐにできるものではない

看護師や介護職員は、時間に追われ、待つことができず、せっかちになりがちではないでしょうか。認知症の人について何かを決める必要があるとき、その場で決めてもらおうと思って相手をつい急かしたり、しつこく迫ったりすることもあるかもしれません。 しかし、そこで相手が怒ったり、拒否したら、これもその方の意思です。無理に深追いしたり、諦めてしまうのではなく、いったん退室し、機会を改めます。そして「私たちのかかわり方に、何か工夫はできないものか」と、考えることが大事です。

認知症の人の意思決定は、その場ですぐにできるものではない、と認識しておくことが大切です。

認知症の人の意思を引き出すには、言葉だけでなく、本人の表情を読む「空気を読む力」が必要です。加えて、そのなかで、核心に近づく「コミュニケーション力」が求められます。

(2)相手に合わせてもらうのではなく、自分が合わせる

コミュニケーションスキルには、認知スキルと非認知スキルがあります1

認知スキルは、計算や読み書きをするスキルです。コミュニケーションにおいて、相手とのやりとりのなかで損得計算をすることも、認知スキルに当たります。
非認知スキルは、社会情動スキルともいいます。自身を知り、制御しながら、相手に応じて自由に自身も応じるスキルです。

認知症の人は、損得計算や自身を制御することは苦手です。相手に合わせることも得意ではありません。だからこそ、認知症の人は「正直に自分を出す」人だと言えるでしょう。
認知症の人に合わせてもらうことを求めるのではなく、私たちのほうが相手に合わせる意識をもつ必要があります。

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