スキントラブル解決Q&APart3
ハイリスク・スキントラブルへの対処

Q2がん治療の分子標的薬治療を受けている患者の手足症候群への対応は?

A.予防的な観点からも、抗がん剤治療が開始された時点からのスキンケアが重要です。

高木良重

2018年6月公開

EGFR系阻害薬による皮膚障害

分子標的薬は、がんの増殖、生存、悪性化などにつながる特定の“標的”に作用する薬剤です。従来から知られている殺細胞性抗がん剤と比べると、がん細胞への選択性が高い反面、標的によってさまざまな副作用があります。特にEGFR系阻害薬は、上皮成長因子受容体(epidermal growth facter receptor:EGFR)への結合によりシグナル伝達を阻害することで効果を発揮するといわれていますが、EGFRは皮膚の正常細胞の成長を阻害するため皮膚障害をもたらします(表1)。代表的な副作用として手足症候群(図1)があり、しびれやヒリヒリ感といった感覚異常、紅斑や色素沈着といった皮膚変化が初発症状として現れます。さらに症状が進行すると、痛みを伴う発赤や腫脹、皮膚そのものは亀裂や潰瘍といった変化をもたらし、家事や歩行といった日常生活にも支障をきたすことがあります(表2)。このような患者の皮膚は小さな刺激でも傷つきやすく、症状の重症化につながります。そのため、予防的な観点からも、抗がん剤治療が開始された時点からのスキンケアが重要となります。

表1 手足症候群を発生しやすい分子標的薬

一般名(製品名) 適応となる疾患
ソラフェニブ(ネクサバール®

腎細胞がん、肝細胞がん、甲状腺がん

スニチニブ(スーテント®

腎細胞がん、消化管間質腫瘍、膵神経内分泌腫瘍

アキシチニブ(インライタ®

腎細胞がん

ベバシズマブ(アバスチン®

大腸がん、乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、悪性神経膠腫

レゴラフェニブ(スチバーガ®

大腸がん、消化管間質腫瘍

イマチニブ(グリベック®

消化管間質腫瘍

図1手足症候群

表2 手足症候群の重症度(手掌・足底発赤知覚不全症候群):CTCAE分類

横にスクロールしてご覧いただけます。

Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5

疼痛を伴わないわずかな皮膚の変化または皮膚炎

(例:紅斑、浮腫、角質増殖症)

疼痛を伴う皮膚の変化

(例:角質剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖症)

身の回り以外の日常生活動作の制限

疼痛を伴う高度の皮膚の変化

(例:角質剥離、水疱、出血、浮腫、角質増殖症)

身の回りの日常生活動作の制限

   

CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events):米国国立がん研究所が作成した有害事象の重症度で、Grade1~5の5段階で評価される。手足症候群にはGrade4と5が存在しない

手足症候群に対するスキンケア

1.皮膚の清潔

手足症候群が起こりやすい手と足、特に手は1日に何度も「洗う」行為が行われます。皮膚の汚れを取り除くためには洗浄剤を用いる必要がありますが、多くの洗浄剤はアルカリ性で、何度も使用することにより皮膚表面の皮脂膜を必要以上に取り除き、皮膚のバリア機能の破綻につながります。選択する洗浄剤としては弱酸性のものが望ましく、洗浄剤を使う頻度も最小限となるようにしましょう(表3)。

表3弱酸性皮膚洗浄剤の例

ベーテルTM F
(越屋メディカル)

泡状で、洗浄でも拭き取りのみでも可能。セラミド配合、無香料・無着色

プライムウォッシュ薬用洗浄料
(サラヤ)

殿部などデリケートな皮膚の洗浄用に開発された。グリチルリチン酸ジカリウム(抗炎症成分)、アミノ酸系洗浄成分、アミノ酸(保湿剤)配合

ソフティ 泡洗浄料
(花王プロフェッショナル・サービス)

保湿成分配合。泡切れが早い

コラージュフルフル泡石鹸
(持田ヘルスケア)

硝酸ミコナゾール(抗真菌成分)含有。真菌感染症の予防や、症状の改善に効果がある

2.皮膚の保湿

手足症候群に限らず、抗がん剤の投与により皮膚は乾燥しがちです。乾燥した皮膚は外部からの菌が侵入しやすい状態でもあります。そのため、皮膚に潤いを与えるために保湿剤を塗布します。保湿剤にはローションタイプとクリームタイプがあり、使用時のべたつき感や皮膚表面の保護性が異なります(図2)。日中においては、手指を使うことが多く皮膚表面に残りやすいクリームタイプのものだと操作性に支障をきたすため、ローションタイプを推奨します。夜間における手の保湿、また足の保湿としては体内の水分を外部へ逃さないためにもクリームタイプのものを使用するとよいでしょう。

図2クリーム等の基剤による違い

3.皮膚の保護

手や足は常に外界と接触するため、摩擦や圧迫といった刺激を受けやすい部位です。そのため、損傷予防として手袋や靴下を着用してもらうようにしましょう。また、患者自身の爪で皮膚損傷をきたすことがあるため、適切な長さに維持するようにしましょう(図3)。

皮膚症状がひどい場合には、がん治療の継続も困難となります。Grade2以上となった場合には、症状の改善があるまで抗がん剤の減量、もしくは休薬を主治医に検討してもらいましょう。症状の程度に応じて、外用薬もしくは経口薬による全身管理が行われることもあります。

図3爪のカット

参考文献

  1. 1.高木良重:がん化学療法を受けている患者.日本創傷・オストミー・失禁管理学会編,スキンケアガイドブック.照林社,東京,2017:125-133.

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