A.痒みの誘因である皮膚の乾燥に対して予防的に保湿ケアを行います。
清藤友里絵
2018年6月公開
痒みは透析患者の多くが訴える症状の一つで、けっして軽視してはいけません。持続する痒みは不眠や集中力の低下など日常生活に影響を及ぼしたり、うつ病を発症することもあります。痒みの発生機序には「末梢性」と「中枢性」があります。「末梢性」の最大の原因は皮膚の乾燥です。加齢とともに、角質層にある①天然保湿因子、②角質細胞間脂質、③皮脂膜の減少により、角質層の水分保持機能が低下し皮膚が乾燥します。さらに透析患者は、透析による除水や水分摂取制限により皮膚への水分供給量が低下するため、いっそう皮膚が乾燥しやすい状態にあります。そして、皮膚が乾燥すると痒みの受容器であるC線維が表皮内にまで侵入し容易に痒みが誘発されます(図1)。
透析患者の90%以上に皮膚の乾燥がみられるという報告がありますので、透析開始時より、予防的に保湿ケアを行いましょう。保湿ケアのポイントを表1に示します。保湿効果が実感できるまでには期間を要するため、痒みが強い場合は止痒効果のある外用薬(抗ヒスタミンやステロイド)を併用します。局所の冷却も痒みの軽減に効果的です。また、掻破による皮膚損傷(図2)を予防するため爪を整えます。
「中枢性」の原因は、内因性オピオイド(体内のモルヒネ様物質の総称)のバランス異常です。痒みを誘発するオピオイドμ受容体が、痒みを抑制するオピオイドκ受容体よりも優位になると痒みが生じます。透析患者はオピオイドμ受容体と結合するβ-エンドルフィン濃度が高い傾向にあるという報告があります。オピオイドのバランスを整えるオピオイドκ受容体作動薬の投与で痒みを抑えることができます。
その他にも、透析治療による「尿毒性物質の蓄積」「ダイアライザーの化学成分」「透析膜によるアレルギー反応」などが痒みを誘発します。薬物療法や透析方法の工夫などにより痒みを軽減できることもあるため、医師と連携を取りながらケアを行いましょう。
図1乾燥している皮膚の構造
皮脂を取り過ぎない |
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保湿剤を効果的に使用する |
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生活環境を整える |
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図2皮膚の乾燥と掻破痕
透析療法を必要とする患者は、免疫機能の低下から易感染状態にあります。感染症は透析患者の死因の上位を占め、その原因の一つにシャント感染による敗血症が挙げられます。シャント感染は、穿刺する際の穿刺者の手指汚染、患者が保有する菌、固定用テープによる皮膚障害などが原因で生じる可能性があります(図3)。施設で定められたスタンダードプリコーションを徹底し、感染予防に努めましょう。固定用テープによる皮膚障害(図4)を予防することも感染予防につながります。剥離刺激の少ないテープが使用できればよいのですが、抜針事故が懸念されるため、ある程度の粘着力のあるテープを使用しなければなりません。皮膚への負担を少なくする工夫が必要です(表2)。
早期発見と早期対処には日々の観察が重要です。シャント部周囲の皮膚に感染徴候(発赤、熱感、腫脹、硬結、疼痛)が生じた場合はすみやかに医師に報告しましょう。
図3シャント部の感染
図4穿刺針固定用テープによる皮膚障害
引用・参考文献
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Part3 ハイリスク・スキントラブルへの対処
Part1
健康な皮膚と異常な皮膚
Part2
皮膚のアセスメントとスキンケアの基本テクニック
Part3
ハイリスク・スキントラブルへの対処