A.周囲皮膚への洗浄、被覆、保湿、浸軟を防ぐ水分の除去を行います。
杉本はるみ
2018年6月公開
褥瘡周囲の皮膚は、皮膚表面の汗や皮脂に加え、創からの滲出液や細菌、排泄物などにより汚染されています。褥瘡周囲の皮膚を洗浄し汚れを除去することは、創感染のリスクを減らすとともに表皮化を進めることができるので、褥瘡の治癒促進のためには重要です。
日本褥瘡学会は、スキンケアを「皮膚から刺激物、異物、感染源などを取り除く洗浄、皮膚と刺激物、異物、感染源などを遮断したり、皮膚への光熱刺激や物理的刺激を小さくしたりする被覆、角質層の水分を保持する保湿、皮膚の浸軟を防ぐ水分の除去など」と定義しています1。ここでは、『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』のClinical Question(CQ)に記載されている「発生後のスキンケア」(表1)を参考にしながら、褥瘡周囲皮膚のスキンケアを考えてみましょう。
Clinical Question | 推奨度 | 推奨文 | |
---|---|---|---|
CQ8.6 | 褥瘡治癒促進のために、褥瘡周囲皮膚の洗浄は有効か |
C1 | 弱酸性洗浄剤による洗浄を行ってもよい |
CQ8.7 | 尿・便失禁がある場合、褥瘡治癒促進のためにどのようなスキンケアを行うとよいか |
C1 | 洗浄剤による洗浄後に、褥瘡周囲皮膚への皮膚保護クリーム等の塗布を行ってもよい |
日本褥瘡学会編:スキンケア.褥瘡ガイドブック 第2版 褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)準拠.照林社,東京, 2015:195-199..より引用
褥瘡周囲の皮膚は「タンパク質」などで汚染されており、洗浄成分を用いなければ皮膚に残存するため、皮膚の状態をアセスメントしながら、洗浄剤を選択します。皮膚が脆弱な場合は、皮膚への刺激を少なくするために弱酸性洗浄剤、皮膚が乾燥している場合は、皮膚保護成分配合の洗浄剤、皮膚より真菌が検出された場合は、硝酸ミコナゾールを配合した石鹸などを選択します。
表1洗浄剤の一例(皮膚が脆弱な場合)
ソフティ 薬用洗浄料
(花王プロフェッショナル・サービス)
セキューラ® CL
(スミス・アンド・ネフュー)
リモイス®クレンズ
(アルケア)
表1洗浄剤の一例(皮膚より真菌が検出された場合)
コラージュフルフル泡石鹸
(持田ヘルスケア)
①1日1回、あるいはドレッシング材交換時に、泡立てた洗浄剤でドレッシング材貼付部を超える範囲まで、愛護的に洗う(図1)。創内は洗浄剤を用いて洗浄しない
図1泡立てた洗浄剤を用いた洗浄
②38℃前後の微温湯(水道水)を用いて、皮膚に洗浄成分が残らないように十分な量で洗浄する(図2)。
図2微温湯で洗浄剤を洗い流す
尿および便失禁や寝たきり状態でおむつを使用している場合、おむつ内の皮膚は排泄物の付着も加わるため高温多湿の環境となり、皮膚は湿潤します。湿潤は浸軟(角質が水分を大量に吸収して白く膨潤した状態)をまねき(図3)、皮膚のバリア機能や組織耐久性を低下させるため、少しのずれや患者自身の体動による摩擦でも皮膚の損傷が起こりやすくなります(図4)。また、便失禁は排泄物中の消化酵素・細菌などの化学的刺激が、皮膚のバリア機能を著しく低下させます。発汗量の多いときや失禁状態でおむつの使用により排泄物が常に皮膚に接触している場合は、皮膚の湿潤を防ぐケアが必要です。
図3仙骨部褥瘡周囲に発生した浸軟
図4おむつ内環境と皮膚障害のリスク
図5撥水性皮膚保護クリームの塗布
表2撥水性皮膚保護クリームの一例
リモイス®バリア
(アルケア)
セキューラ® PO
(スミス・アンド・ネフュー)
3MTM キャビロンTM ポリマーコーティング クリーム
(スリーエムジャパン)
ソフティ保護オイル
(花王プロフェッショナル・サービス)
引用・参考文献
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Part3 ハイリスク・スキントラブルへの対処
Part1
健康な皮膚と異常な皮膚
Part2
皮膚のアセスメントとスキンケアの基本テクニック
Part3
ハイリスク・スキントラブルへの対処