スキントラブル解決Q&APart3
ハイリスク・スキントラブルへの対処

Q11褥瘡周囲皮膚のスキンケア、原則的にどう行う?

A.周囲皮膚への洗浄、被覆、保湿、浸軟を防ぐ水分の除去を行います。

杉本はるみ

2018年6月公開

褥瘡周囲皮膚のスキンケアとは

褥瘡周囲の皮膚は、皮膚表面の汗や皮脂に加え、創からの滲出液や細菌、排泄物などにより汚染されています。褥瘡周囲の皮膚を洗浄し汚れを除去することは、創感染のリスクを減らすとともに表皮化を進めることができるので、褥瘡の治癒促進のためには重要です。

日本褥瘡学会は、スキンケアを「皮膚から刺激物、異物、感染源などを取り除く洗浄、皮膚と刺激物、異物、感染源などを遮断したり、皮膚への光熱刺激や物理的刺激を小さくしたりする被覆、角質層の水分を保持する保湿、皮膚の浸軟を防ぐ水分の除去など」と定義しています1。ここでは、『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』のClinical Question(CQ)に記載されている「発生後のスキンケア」(表1)を参考にしながら、褥瘡周囲皮膚のスキンケアを考えてみましょう。

表1 発生後のスキンケア

横にスクロールしてご覧いただけます。

Clinical Question 推奨度 推奨文
CQ8.6

褥瘡治癒促進のために、褥瘡周囲皮膚の洗浄は有効か

C1

弱酸性洗浄剤による洗浄を行ってもよい

CQ8.7

尿・便失禁がある場合、褥瘡治癒促進のためにどのようなスキンケアを行うとよいか

C1

洗浄剤による洗浄後に、褥瘡周囲皮膚への皮膚保護クリーム等の塗布を行ってもよい

日本褥瘡学会編:スキンケア.褥瘡ガイドブック 第2版 褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)準拠.照林社,東京, 2015:195-199..より引用

褥瘡治癒を促進するための褥瘡周囲皮膚の洗浄

1.洗浄剤の選択(表2)

褥瘡周囲の皮膚は「タンパク質」などで汚染されており、洗浄成分を用いなければ皮膚に残存するため、皮膚の状態をアセスメントしながら、洗浄剤を選択します。皮膚が脆弱な場合は、皮膚への刺激を少なくするために弱酸性洗浄剤、皮膚が乾燥している場合は、皮膚保護成分配合の洗浄剤、皮膚より真菌が検出された場合は、硝酸ミコナゾールを配合した石鹸などを選択します。

表1洗浄剤の一例(皮膚が脆弱な場合)

ソフティ 薬用洗浄料
(花王プロフェッショナル・サービス)

  • pH5.0~6.0
  • 保湿成分:セラミドEC、ユーカリエキス配合

セキューラ® CL
(スミス・アンド・ネフュー)

  • pH5.2
  • 保湿成分:アロエ、グリセリン配合

リモイス®クレンズ
(アルケア)

  • ph5.5
  • 保湿成分:スクワラン、マカデミアナッツ油など配合
  • 天然オイルで汚れを浮き上がらせ、拭き取るだけの洗浄に使用する

表1洗浄剤の一例(皮膚より真菌が検出された場合)

コラージュフルフル泡石鹸
(持田ヘルスケア)

  • ph6.3
  • ミコナゾール硝酸塩配合

2.洗浄の実際

1日1回、あるいはドレッシング材交換時に、泡立てた洗浄剤でドレッシング材貼付部を超える範囲まで、愛護的に洗う(図1)。創内は洗浄剤を用いて洗浄しない

図1泡立てた洗浄剤を用いた洗浄

38℃前後の微温湯(水道水)を用いて、皮膚に洗浄成分が残らないように十分な量で洗浄する(図2)。

図2微温湯で洗浄剤を洗い流す

尿・便失禁がある場合の褥瘡周囲のスキンケア

1.尿・便失禁の褥瘡周囲皮膚に及ぼす影響

尿および便失禁や寝たきり状態でおむつを使用している場合、おむつ内の皮膚は排泄物の付着も加わるため高温多湿の環境となり、皮膚は湿潤します。湿潤は浸軟(角質が水分を大量に吸収して白く膨潤した状態)をまねき(図3)、皮膚のバリア機能や組織耐久性を低下させるため、少しのずれや患者自身の体動による摩擦でも皮膚の損傷が起こりやすくなります(図4)。また、便失禁は排泄物中の消化酵素・細菌などの化学的刺激が、皮膚のバリア機能を著しく低下させます。発汗量の多いときや失禁状態でおむつの使用により排泄物が常に皮膚に接触している場合は、皮膚の湿潤を防ぐケアが必要です。

図3仙骨部褥瘡周囲に発生した浸軟

図4おむつ内環境と皮膚障害のリスク

内藤亜由美:強度の下痢のある患者のスキントラブル.スキントラブルケア パーフェクトガイド.学研メディカル秀潤社,東京,2013:102-110.を参考に作成

2.尿・便失禁患者の皮膚の湿潤を防ぐケア

図5撥水性皮膚保護クリームの塗布

  1. 泡立てた洗浄剤で、浸軟した皮膚に摩擦を加えないようにやさしく洗浄します。尿・便失禁などで創部が汚染された場合は、そのつど洗浄する
  2. 皮膚に洗浄剤が残らないように、38℃前後の微温湯(水道水)を用いて十分に洗い流す
  3. 洗浄後は、排泄物が付着しないよう撥水性皮膚保護クリームを褥瘡周囲皮膚に塗布する(図5)。皮膚が脆弱で、撥水性皮膚保護クリームを塗布するための機械的刺激で皮膚を損傷する可能性がある場合は、スプレータイプなどを使用する(表2)。
  4. 褥瘡発生部位にドレッシング材を貼付している場合は、撥水性皮膚保護クリームを塗布することでドレッシング材の粘着力が弱まる可能性があるため、ドレッシング材貼付部位を避けて塗布するようにする

表2撥水性皮膚保護クリームの一例

リモイス®バリア
(アルケア)

  • ヒアルロン酸を配合
  • 撥水と保湿効果あり
  • 弱酸性でPH緩衝能により、刺激から肌をやさしく保護する

セキューラ® PO
(スミス・アンド・ネフュー)

  • ワセリン、チョウジオイルなどの 保湿効果配合

3MTM キャビロンTM ポリマーコーティング クリーム
(スリーエムジャパン)

  • ノンワセリンで撥水・バリア・ポリマーコーティングで、便や尿の刺激物から皮膚を守る
  • 保湿成分配合

ソフティ保護オイル
(花王プロフェッショナル・サービス)

  • ポリエーテル変性シリコーン配合のスプレータイプ
  • スクアランやグアイアズレンの保湿剤を配合

引用・参考文献

  1. 1.日本褥瘡学会編:スキンケア.褥瘡ガイドブック 第2版 褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)準拠.照林社,東京,2015:195-199.
  2. 2.加瀬昌子:「創内」「創周囲皮膚」の洗浄,どのように行う?.館正弘監修,褥瘡治療・ケアの「こんなときどうする?」.照林社,東京,2015:180-185.
  3. 3.紺家千津子,松井優子:局所管理の重点技術.真田弘美,須釜淳子編著,改訂版 実践に基づく最新褥瘡看護技術.照林社,東京,2009:100-117.
  4. 4.内藤亜由美:強度の下痢のある患者のスキンラブル.内藤亜由美,安部正敏編著,スキントラブルケア パーフェクトガイド.学研メディカル秀潤社,東京,2013:102-110.
  5. 5.中川ひろみ:褥瘡のスキンケア.宮地良樹,溝上祐子編著,褥瘡治療・ケアトータルガイド.照林社,東京,2009:166-175.

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