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ストーマ合併症への対応
性機能障害

2015年5月公開

オストメイトの性機能障害

人間にとって「性-セクシュアリティ」とは、男性と女性という性別から生じる生物学的、心理学的、社会・文化的側面を含み、一人ひとりの人格に不可欠な要素である。

性の生物学的側面には、性器のみならず性行動や性反応を含み、心理的な側面は性的な自己概念であり、ボディイメージと深くかかわる。社会・文化的側面は、生物学的な性に対する社会的価値観であり、性役割などが含まれる。

性機能障害は、性反応が抑制され、性交ができない、性感がないなど、性交のプロセスが十分に展開できない障害といわれる。性反応が引き起こされるためには、正常な血液循環や神経支配、感覚機能、反射作用、ホルモン環境などを備えた生殖器官が必要である。

悪性腫瘍の根治を目的とした直腸や膀胱全摘出後のストーマ造設術の場合には、リンパ節郭清に伴い骨盤神経、下腹神経、陰部神経などの損傷を生じやすく、勃起障害や射精障害、排尿障害などを伴う。また、女性においても性欲の低下やオーガズムの消失、会陰創の痛み、腟の短縮や狭小化、子宮の後屈や腟の角度変化など、性反応や性交に影響する生殖器官の変化を伴う。

性機能障害というセクシュアリティの生物学的な側面での変化は、性的な自己観などの心理学的な側面や、性役割という社会・文化的な側面にも影響を及ぼす。

オストメイトは、ストーマ造設術に伴うボディイメージの変化を経験しており、これが生物学的な側面である性反応や性行動に影響したり、性役割などの社会・文化的な側面にも影響し、周囲の人と関係を築くことに影響したりすることがある。

このように、オストメイトの性機能障害は単に身体的な問題だけにとどまらず、人間の日常生活やオストメイトを取り巻く人との関係性をも揺るがす重要な問題である。そのため医療者は、患者の充実した生活を促進するために、セクシュアリティの各側面への包括的な援助を行っていく必要がある。

患者の性的問題に対する援助モデル:PLISSITモデル(Annon, 1976)

患者の性に関する問題について、看護師は援助の必要性を認識している一方で、「恥ずかしい」「性について話しづらい」「援助方法がわからない」「タイミングがわからない」など、実際の援助に消極的である。そこで、1976年にAnnonが提唱した医療従事者が段階的に性的問題にかかわる援助モデルを紹介する。

PLISSITモデルのストーマを有する患者の性的な問題解決のための効果を明らかにする研究では、このモデルを適応した群と非適応群での性的満足について調査し、適応群に性的満足、身体的・感情的機能や生理的な問題の解決に有意な差が見られたとの報告もある(表1、2)。

表 1 PLISSITモデル (Annon, 1976)

P: Permission(許可: 性相談を受け付けるというメッセージを出す)

医療者が患者の性の悩み相談に応じる旨のメッセージを明確に患者に伝える。

患者にとって性的側面が重要でなかったり、その時点における優先順位が低かったりした場合は、無理に性の話題を掘り起こす必要はない。

*治療方針の決定時には性的合併症についても検討されたか?

LI: Limited Information(基本的情報の提供)

予定される治療によって起こりうる性的合併症や、それらへの対処方法について、基本的情報を患者に伝える。

疾患と性に関する患者用パンフレットなどを渡す。

*患者の話をよく聴き、理解しようとする姿勢が医療者に求められる。

SS: Specific Suggestions(個別的なアドバイス)

患者のセックスヒストリーに基づき、より個別的な問題に対処する。

性的問題を引き起こす原因(性機能の障害、ボディイメージの変容、治療関連副作用、パートナーとの人間関係など)を特定し、それらの問題に対する対応策を患者とともに検討する。

*この段階に対応する医療者は、上記2段階よりも性相談に習熟している必要がある。

IT: Intensive Therapy(集中的治療)

患者が抱える性的問題の重症化/長期化、発病前から未解決の性的問題の存在、性的虐待などのトラウマなどが認められる場合は、より専門のスタッフ(一般精神心理専門家・セックスカウンセラー)への紹介を考える

表 2 オストメイトへのPLISSITモデルの適応例

P: Permission (許可: 性相談を受け付けるというメッセージを出す)

入院後、オストメイトの生活をイメージできる説明をするとき、オストメイトに性機能障害や性的な問題についてWOCNやストーマ外来のナースが相談を受けることができることを伝える。

術前には、性機能障害の可能性について説明を受けたかどうかを確認する。

性機能障害について、妻(夫)と話し合えたか確認する。

LI: Limited Information(基本的情報の提供)

オストメイトの日常生活についてパンフレットを用いて、性生活でのストーマや装具の対処について説明する。

性的な問題についての心配はないか尋ねる。

SS: Specific Suggestions(個別的なアドバイス)

セルフケアの状況等を見ながら、ストーマ外来で適宜性的な話題に触れ、きっかけづくりをする。

患者が性的な問題について話し始めたら、どこに性的問題の原因があるかを整理する。

-アセスメントの項目
① 性についての生活歴(性役割・個人の性的存在としての見方・性機能)
② 性習慣に変化があるか
③ 性行為中の気がかり
④ 疼痛はあるか
⑤ 術後の身体的変化に対する感情(ボディイメージ)
⑥ 自尊感情
⑦ 男性である、女性であるという感覚に何か変化があるか
⑧ パートナーとの関係性に心配があるか

患者自らが、行動を起こせるように対応策を一緒に考える。

医師の診察が必要かどうかを見極めたうえで必要ならばコンサルトする。

IT: Intensive Therapy(集中的治療)

患者が抱える性的問題の重症化/長期化、発病前から未解決の性的問題の存在、性的虐待などのトラウマなどが認められる場合は、より専門のスタッフ(一般精神心理専門家・セックスカウンセラー)への紹介を考える