2015年5月公開
洗腸(灌注排便法)とは、ストーマから残存した腸管へ微温湯を大量に注入して腸管を刺激し、腸管にある便を微温湯とともに強制的に排出させ、ストーマから便が排泄されない時間をつくる排便の管理方法の一つである。
日本に導入された1960年代後半は、自然排便法(ストーマ装具を貼付し、そこに排泄された便をためる方法)に対応できる装具がなく、においや皮膚障害などの問題も多かったことから、洗腸が定着していった。
近年では、ストーマ装具の改良と、造設・管理方法の技術の向上により自然排便法が主流となったことや、被災時には洗腸ができない環境となること(大量の湯や洗腸するための場所の確保ができないなど)が課題となった背景もあり、新たに洗腸による管理方法を指導する機会や洗腸しているストーマ保有者と接する機会が減少している。
ストーマ保有者にとって自然排便法と灌注排便法のどちらがよりよい管理方法かは一概には言えず、ストーマとの生活がより安全に快適に過ごせる方法として適応を判断したうえで、以下の利点や欠点を鑑み、医療者とストーマ保有者とがともに管理方法を検討することが望ましい。
一般に1~2日に1回、定期的に(朝が多い)微温湯をストーマから腸管内に注入し、たまった便を一度に排出させるため、ストーマ装具を装着せず1日の生活を過ごすことが可能となる。
通常、1回の洗腸には準備と片づけも含めて60~90分程度要するが、いつ出るかわからない便への悩みを軽減し、においや漏れ、装具による皮膚障害などストーマ保有者が抱える精神的不安や身体的苦痛から解放できる点では大きな意義がある。
すべてのストーマ保有者が適応できるわけではないこと、洗腸によって定期的な排便が得られるようになるためには、医師や看護師による指導が必要になるほか、落ち着いて洗腸に取り組むための自宅でのスペースと時間の確保が必要となる。
利点 |
定期的な排便が得られる 便やにおい、装具との不具合などの精神的不安の軽減 ストーマ用品の経済的負担の軽減 清潔感が保てる ストーマ装具を貼付しなくても生活が可能である |
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欠点 |
技術の習得(指導を受ける)が必要 専用の用具が必要 準備から後片付けまで1時間程度要する 占有場所(トイレや浴室)が必要 手間がかかる 適応と禁忌がある |
便漏れや皮膚保護剤による皮膚障害がみられ、自然排便法の継続が困難なストーマ保有者や、消臭剤では解消されないにおいの問題を抱えたストーマ保有者の場合に効果的である。
しかし、洗腸がすべてのストーマ保有者に適応できるわけではない。適応と禁忌(表2)を十分理解したうえで、ストーマ保有者の身体的・社会的背景を考慮して進めていく必要がある。
適応となるストーマ造設位置は、左側結腸ストーマであり、これを安全に実施するためには医師による医学的判断に基づいた評価が必要となる。
左側結腸ストーマであっても、大腸憩室や狭窄は穿孔の危険性が高く禁忌となる。ストーマ狭窄や腸脱出、傍ストーマヘルニア、バイパス術がある場合、洗腸による穿孔のリスクだけではなく一定の排便が見込めないことが多い。残存結腸の短い右側結腸ストーマや回腸ストーマの適応は難しい。さらに、視力や上肢障害、身体的に体力に問題がある場合や、高齢者や精神疾患で理解に乏しいストーマ保有者は技術習得の点からみて難しく適さない。
これらのことから、洗腸においては医師の許可のもと、看護師による総合的評価により導入が可能か判断されることが望ましい。
継続的に実施できていても、環境の変化、がんの再発や脳梗塞発症、体力などの身体的な変化などで洗腸の継続が困難と判断された場合は、自然排便法に戻さなければならない状況があることも理解しておく必要がある。
適応 |
下行結腸やS状結腸ストーマ 自己管理により施行が可能である 自然排便法を習得している 身体的・精神的な状況が落ち着いている 下痢をしていない ストーマ狭窄、傍ストーマヘルニア、ストーマ静脈瘤など穿孔の危険性がない 医師の許可がある |
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禁忌 |
【解剖学的禁忌】 回腸ストーマ、上行結腸や横行結腸ストーマ 腸穿孔を来す恐れのあるもの(大腸憩室、放射線腸炎、狭窄など) ストーマの合併症を有するもの(ストーマ狭窄、傍ストーマヘルニア、ストーマ静脈瘤など) |
【身体的および精神的禁忌】 自己管理ができない(精神疾患、理解力の問題、身体的障害など) 全身状態が悪い 体力がなく1時間座っていられない 洗腸しても1日ももたずに排便がある 下痢しやすい 洗腸に自信が持てない |
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【環境の問題】 時間的余裕が持てない 実施する場所の確保ができない 同居者の理解が得られない |
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