2015年5月公開
ストーマ保有者の性にかかわるときの医療者の態度
性の問題は非常にプライベートな事柄であり、この問題について援助をするときには、患者と医療者間の信頼を確立し、誠実にかかわることが大切である。
日本人は文化的背景として、性について「公に話すものではない」という認識をもっている。
性に関する問題は重要であるにもかかわらず、患者は「医療者に相談すべき内容ではない」「恥かしい」などの思いから、自ら伝えられることが少ない。
医療者の態度によっては、患者は性に関する問題を話すことをためらう場合もあるため、医療者は個人が持つ性に対する信念や価値観に違いがあることを認識し、患者の性についての信念や価値観を尊重し、共感性を持って傾聴することが必要となる。
予測されるストーマ保有者の性に関する問題
ストーマ保有者の「性‐セクシュアリティ」に関する問題をさまざまな側面から整理すると、表1のような問題が考えられる。
表1 ストーマ保有者の「性‐セクシュアリティ」に関する問題
1.生物学的側面に関連する問題 | 性機能障害 | ・男性:勃起障害・射精障害 ・女性:性交時痛(会陰創の痛み、腟の短縮や狭小化に伴う痛み、子宮の後屈や腟の角度変化などによる痛み)性反応の変化(性欲の低下や腟潤滑液の減少、オーガズムの消失) |
性行為の困難性 | 性行為中の装具の邪魔な感覚、ストーマ損傷の気がかり、においへの気がかりなど、排泄物の漏れについての気がかり | |
2.心理学的側面に関連する問題 | 性的自己観の変化 | ・男性や女性としての魅力低下の認識 ・男性や女性として、否定的な自己観 ・性的な側面における男性や女性としての身体構造や機能が不完全であるとみなすボディイメージ |
3.社会的側面に関連する問題 | 性役割に関する問題 | 夫や妻としての役割の変化 |
夫婦の関係性に関する問題 | 夫婦の性的な親密性の変容 | |
他者との関係性に関する問題 | 他者との関係性の変化 |
性生活についての指導・カウンセリングのポイント
1.男性の器質的な勃起障害
PDE5阻害剤(バイアグラ®、レビトラ®、シアリス®)の内服、陰圧式勃起補助具、血管作動薬(プロスタグランディンE1:PGE1)の陰茎海綿体注射、陰茎プロステーシス挿入術などがあることを説明し、専門外来の紹介について相談する。
2.女性の性交時痛について
手術をしたことで、「会陰創が裂けるのではないか」など女性性器が変化してしまったと不安になることもある。心理的にリラックスすることも必要であるが、疼痛は原則としてがまんしないことを伝える。
性交時の疼痛の原因が、開脚による会陰創の痛み、腟の短縮や子宮の後屈や腟の角度の変化などによって痛みが生じることがある。手術前と同じような体位ではうまくいかなくても他の体位(開脚が少ない伸長位や前側位など女性がペニスの挿入の深さを調整できる騎乗位など)をとれば痛みを伴わず順調にできることもある。体位には個人差があるためパートナーと相談し、体位の工夫をしてみることもひとつの方法であることを伝える。
腟潤滑液が少なく、性交時の疼痛が発生しているようであれば、水溶性腟潤滑ゼリーの使用を勧める。
3.性行為の困難性
性行為中の装具の邪魔な感覚や排泄物が見えることなどの気がかりに対しては、下着や腹帯などの着用、小型の装具の使用や、ストーマが見えない不透明で肌色の装具、不織布などがついている装具を紹介する。また、ストーマ損傷については、あまり慎重になりすぎる必要はないが、腹部が極度に圧迫されない体位の工夫ができることを伝える。
排泄物の漏れに対する心配に対しては性行為前に排泄物を破棄し、はめ込みの確認をしておけばよいことを話し、においへの気がかりに対しては、ストーマ袋に入れる防臭剤や防臭効果があるパウチカバーの使用を紹介する。
4.性的自己観の変化、ボディイメージの変化についてのカウンセリング
ストーマ保有者は、ストーマ造設することで外観上の女性性や男性性を保つことができなくなることを悲観することもある。術前からストーマが造設されても、本来持つ男性らしさや女性らしさを妨げるものではないことを説明して患者の気持ちや思いを傾聴する。
ストーマサイトマーキングの際に、服装の好みなども考慮しながら位置決めをすることも支援の一つである。
その人が大切にしている外観上での男性らしさや女性らしさを話し合いながら、見た目に目立たないような装具の選択やさまざまな服装の工夫が可能であることを示す。
5.夫婦の関係性に関する問題
ストーマ保有者は、ストーマが造設されたことで夫婦での性的な親密性に変化を感じ、不安や心配となっていることがある。
特に、「夫婦の間で性行為について話さなくても伝わっている」と考えている場合や「性行為について話がしにくい」と考えている場合、性的な親密性に関する考え方がすれ違っている場合もある。
手術によって身体に変化があるにもかかわらず、術前とまったく同様な性行為を目標とする場合にも、相互にとって満足できるようなものにならない場合がある。これらの多くは、性にかかわることについてコミュニケーションが十分ではないことが原因となっている。
ストーマ保有者が夫婦の間で性について話し、十分コミュニケーションが図られているかどうか確認し、ストーマ保有者が自ら性について話し合いながら、問題を解決できるようにサポートする。
欧米においては、術前の早い段階から、性に関する問題についてカップルに指導することが推奨されているが、日本においてはこうした介入が難しい。
退院前や退院後、ストーマ保有者が妻や夫に医療者から説明を望む場合には、ストーマ造設後の身体変化や心理状態の変化などを説明したうえで、相互の性について考える機会をもつことを説明する。
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