2015年5月公開
1.患者への説明
洗腸は大量の温湯を結腸に注入して排便させることであるが、ただ結腸にたまっている便を洗い流すのではなく、結腸の圧を上げて大蠕動を促し排便させることである。安全に実施するためにも、その適応や開始時期、注入量など医師の判断を必要とする。
洗腸の目的は、ストーマ装具を使用しないで生活できるように、排便時間帯か排便間隔をコントロールすることであり、実施の有無にかかわらずストーマの管理方法の一つであることを説明し、適応のない患者にはその理由を説明する。
装具を使用しないで生活できるといっても、洗腸を開始して2~3か月は不意の排便に対応するため、ストーマ装具を装着する。できるだけ3か月は決まった時間に洗腸し、排便のコントロールが可能か見きわめる。3か月継続しても、洗腸と洗腸の間に排便がある場合は適応ではないと判断し、自然排便法に切り替える。
さらに、導入にあたっては洗腸の時間帯にトイレなどの個室を1時間近く確保できること、1,000~1,500mLの温湯が準備できること、家族などと同居している場合、部屋の占拠について理解と協力が得られることが、継続するにあたり大切な条件であることを説明する。
2.導入時期
洗腸の導入時期は、術後半年以降が望ましい。理由として、洗腸に1時間近くかかるため、その間座っていられる体力が回復していること、会陰部が創傷治癒に至っていることの確認が必要となる。
術後の腸管の機能や排便の性状が落ち着き、さらにストーマとの生活に慣れて精神的に余裕が生まれ、心身ともに安全に実施できる状態が望ましい。それまでは、自然排便法の習得や、洗腸の手順を覚えておく程度にする。
洗腸の指導はおおむねストーマ外来となる。指導開始時は特に緊張や温湯による腸管の刺激から、気分不快感、冷汗、腹痛、意識消失などの迷走神経反射が起きやすく、臥床できる場所の確保や、血圧計の準備をしておくとよい。
体調不良、不安が強い場合、空腹時や食後1~2時間は実施を控える。洗腸液の量(500~1000mL)は腸管の長さにより異なり医師の指示を受ける。温度(38~40℃)や速度(5~10分、1分間に100mL以下)に留意する。
3.必要物品
市販の洗腸セットを準備する。
①洗腸液袋、②洗腸液注入アダプター③洗腸液排出スリーブ、④フェースプレート、⑤潤滑剤(食用オイルでも可)、⑥クリップや洗濯バサミ、⑦温湯(必要時、温度計)、⑧プラスチックグローブや指サック、⑨エプロンやバスタオル、⑩消臭剤(必要に応じて)、⑪スタンドやS字フック、⑫ストーマ装具やガーゼ類
4.手順
38~40℃の温湯を、注入量よりも500mLくらい多めに用意し、流量調節器を閉じた洗腸液袋へ入れてスタンドやS字フックにかける。
流量調節器を閉じ、ドリップチャンバーを軽く押して温湯を少しためてから、洗腸液注入アダプターまでのチューブ内の空気を抜くために温湯を流す(図1)。
図1 ドリップチャンバー付の場合
軽く押してチャンバー内に少し温湯を入れる
液面をストーマの高さよりも50cmくらい(洗浄液バッグが目の高さになる程度)の位置に調整する。
フェースプレートにスリーブを取り付け、腹部にベルトで固定する。
洋式トイレ、もしくは洋式トイレの前のイスに腰掛け、スリーブの先端を便器に垂らす。スリーブの裾は、トイレにつからない程度にカットする。
手袋をした利き手に潤滑剤をぬり、ストーマ孔にゆっくり挿入し腸の走行を確認する。
潤滑剤を付けた洗腸液注入アダプターを腸の走行に向かってゆっくり挿入する。アダプターが入らなかったり、洗腸液が注入されない場合は、アダプターの向きを変えてみたり、深呼吸や体位を変える、バッグの位置を少し高くするなどの工夫をしてみる。
注入量は500mLくらいから開始し、1分間に100mL(図2)、アダプターを固定しながら5分から10分かけて注入する(図3)。腹部症状や気分不快がなければ、次回より徐々に量を増やす。洗腸液が少ないと、十分に便が出きらないこともある。また、湯量が多すぎたり、湯が冷たかったり、流量が早いと腹痛や冷汗などの症状を起こすので注意する。
図2 注入量の目安
ドリップチャンバーの水滴が一筋の流れに
変化したときが1分間100mLの目安
図3 洗腸の様子
注入後は流量調節器を閉鎖にし、5分程度アダプターをストーマに固定したままストーマからの液漏れを予防する。その間液漏れがある場合、漏れた分を追加注入する。
その後、アダプターをストーマから外し、スリーブ上部をクリップなどで閉鎖して待つ(図4)。30分間、断続的にほとんどの便や洗腸液が排泄される。
図4 スリーブ上部をクリップで閉鎖
排便の最後に黄色の液(後便)が出たことを確認し、終了とする。
スリーブ上部のクリップを外し、洗腸液袋に残っている温湯でスリーブ内を洗い流す。
フェースプレートとスリーブを取り外す。
ストーマ装具の貼付やガーゼ、吸収パット付き絆創膏などで保護する。
5.観察
洗腸には時間がかかるため、部屋の温度に配慮する。
洗腸液注入時は通常腹部の張り感は起こるが、腹痛となる場合は流量や温度の確認を行う。問題がある場合は洗腸を無理に行わずに中止し、日を改める。
ストーマが小さく、アダプターが入らない場合は先端が細いアダプターを選択する。
洗腸液注入後、15分程度でほとんどの便と洗腸液は排泄される。その後の15分は、排泄量が少ないため、スリーブを折ってクリップで止めるなどし、読書やパソコンなど後便が出るまで部屋で自由にすごしてもよい。
洗腸液注入後に排便がうまくいかないときは、腹部を優しくマッサージすると排泄しやすくなる。
記録を行い、適切な注入量や排便と排便の間隔の評価をする(表3)。
状況によって、毎日の実施がよいのか、2日に1回でもよいのかを決定する。
〇月1日 | 〇月2日 | 〇月3日 | 〇月4日 | |
---|---|---|---|---|
液量 | 500mL | 700mL | 700mL | 800mL |
かかった時間 | 5分 | 7分 | 8分 | 9分 |
便が出始めてから 後便が出るまでの時間 |
とりあえず30分で終わりにした | 38分 | 30分 | |
洗腸後、次の便が 出るまでの時間 |
20時間 | 出なかった | 48時間 | |
気づいたことなど | 後便がよくわからない | 軽い腹痛の後勢いよく便が出た 後便がわかった |
洗腸後、便は出ずに洗腸液だけだった | 注入後の張り感がつらい 700mLがちょうどよい |
6.中止が必要な場合
洗腸を中止し開放型のストーマ装具を装着し自然排便法に切り替える必要があるのは、以下のような場合である。
下痢により、洗腸後24時間以内に排便がある。
ストーマ狭窄、傍ストーマヘルニア、ストーマ脱、ストーマ静脈瘤の発症。
高齢による視力低下や認知力や体力の低下。
がんの再発や持病の悪化による体調の悪化。
震災などで、洗腸が継続できない環境。
下痢以外の条件では、洗腸中止後に便秘になることが多く、自然排便法に切り替えた場合は下剤や浣腸で排便コントロールする。
文献
1. ストーマリハビリテーション講習会実行委員会編:ストーマリハビリテーション-実践と理論.金原出版,東京;2006:115-119,141-142.
2. 大村裕子編:カラー写真で見てわかるストーマケア.メディカ出版,大阪,2006:30-35.
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