2015年5月公開
近年では、大腸がんや膀胱がんに対して、術前あるいは術後補助化学療法を実施することが一般的な治療方法として普及してきている。抗がん剤投与における皮膚障害は、生命への危険が少ないことから軽視される傾向にある。
ストーマ管理においては、皮膚障害から管理困難に陥りQOLの低下を招く危険性も考えられる。そのため、スキンケアの知識と技術を用いて皮膚障害の程度を最小限に抑える管理方法を提供する必要がある。
がん化学療法に用いられる治療薬
1.殺細胞性抗がん剤(表1)
DNA合成などすべての細胞が分裂するときの共通の過程を標的に作用し、腫瘍の縮小を狙う治療法である。そのため、正常な骨髄細胞、皮膚の基底細胞、毛根、消化管粘膜細胞が影響を受ける。とくに皮膚は、保湿やバリア機能が低下し、ドライスキン、落屑、菲薄化、色素沈着などが起こる。
2.分子標的治療薬(表2)
がん細胞の浸潤・増殖・転移などに関係する分子EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor:上皮成長因子受容体)を標的にし、がんの増殖を抑えようとするため、薬剤によっては高頻度に皮膚障害が出現することがある。
分子標的治療薬による皮膚障害は、近年とくに注目されており、看護師のケアが重視されている。
対象疾患 | 一般名 | 商品名 | 皮膚の症状(他の主な症状) |
---|---|---|---|
大腸がん | イリノテカン | カンプト® | 発疹、手足症候群、(高度な下痢) |
オキサリプラチン | エルプラット | (嘔吐、末梢神経症状) | |
レボホリナートカルシウム | アイソボリン | 手足症候群、色素沈着 | |
フルオロウラシル | 5-FU | 手足症候群、色素沈着 | |
カペシタビン | ゼローダ® | 手足症候群、色素沈着 | |
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム | ティーエスワン® | 色素沈着、落屑 | |
膀胱がん | ドキソルビシン | アドリアシン® | 発疹 |
メトトレキセート | メソトレキセート® | 色素沈着 | |
ビンブラスチン | エクザール® | (末梢神経炎) | |
シスプラチン | シスプラチン® ブリプラチン® |
脱毛 | |
エトポシド | ベプシド® ラステット® |
発疹 | |
前立腺がん | ドセタキセル | タキソテール® | 発赤、皮疹 |
乳がん 子宮がん |
パクリタキセル | タキソール® パクリタキセル® |
発疹 |
対象疾患 | 一般名 | 商品名 | 皮膚の症状 |
---|---|---|---|
大腸がん | セツキシマブ | アービタックス® | ざ瘡様皮疹、発疹、皮膚乾燥、爪囲炎 |
パニツムマブ | ベクティビックス® | ざ瘡様皮疹、紅斑、発疹、皮膚乾燥、爪囲炎 | |
ベバシズマブ | アバスチン® | 脱毛 | |
レゴラフェニブ | スチバーガ® | 手足症候群、発疹 | |
腎がん | ソラフェニブ | ネクサバール® | 手足症候群、発疹、掻痒 |
スニチニブ | スーテント® | 発疹、皮膚変色、手足症候群 | |
乳がん 胃がん |
トラスツズマブ | ハーセプチン® | 発疹、爪の変化、掻痒感 |
化学療法中に起こり得る皮膚障害
1.手足症候群(hand foot syndrome;HFS)(図1)
手掌や足底に現れる皮膚反応であり、紅斑、知覚過敏、皮膚亀裂、落屑、腫脹があり、重症化すると、有痛性紅斑、水疱、びらんなどが出現する。
出現時期は、早い場合は投与後数日で、多くは数週間後に起こる。
対処法は詳しくは後述する。
図1 手足症候群
2.色素沈着(図2)
化学療法によって生産の亢進したメラニン色素が、皮膚・粘膜・毛髪・歯・爪などに沈着することで発生し、手足や爪、顔が黒ずんだり、黒い斑点状のものが現れる。
図2 色素沈着
3.ざ瘡様皮疹(図3)
発赤疹・紅斑、びらんなどが出現し、投与1~2週間ほどで出現し、3~4週で軽快したのちに皮膚の乾燥や爪周囲炎を認める。
頭部、後頸部、顔面、上背部などが好発部位で、ストーマ周囲のみに限局して起こることはない。
図3 ざ瘡様皮疹
4.爪囲炎
爪の周囲に炎症を生じ、紅斑・腫脹、亀裂、肉芽が形成され、爪はもろく欠損し皮膚を傷つけやすくなるため手入れする(図4)。治療開始後1~2か月頃より出現する。
図4 爪の手入れ方法
化学療法中のストーマ管理
1.ストーマ周囲皮膚のスキンケア
一般的なスキンケア(皮膚の洗浄・保湿・保護)を行うが、装具の剥離刺激による皮膚障害を防ぐために粘着剥離剤や保湿剤入りの洗浄剤を使用するなどスキンケア用品を工夫する。
リモイスクレンズ®は、天然オイルで汚れを浮き上がらせるため、拭き取る際の摩擦が少なく、保湿効果がある。
2.装具選択
剥離刺激が少ない装具を選択する(セルケアシリーズ:セラミド配合皮膚保護剤で接皮面積が少ない)。
3.装具交換間隔
皮膚の安静を保つために、皮膚保護剤の膨潤・溶解状況をみて装具の交換間隔を延長するが、リング状皮膚保護剤等のアクセサリーを併用して装具の耐久性を高める。
4.排泄物の取り扱い
抗がん剤の多くは腎で排泄されるため、尿に含まれた抗がん剤が皮膚へ接触しないようマスクと手袋を着用し、ケア後は必ず流水と石鹸で手を洗う。
装具交換時は、ビニール袋を衣類に挟んで行うのではなく、尿取りパットなど防水性の素材を使用する。
抗がん剤投与後48時間以内は排泄物に注意を払い、トイレに廃棄する際は2回流す。空のストーマ袋は曝露防止のため紙に包んで2重のビニール袋へ入れて廃棄する。
結腸ストーマの場合は、閉鎖型袋ではなく開放型袋を使用して不必要な蓄便を避ける。
尿路ストーマの場合の尿を処理する際は、低い姿勢で行い、周囲に尿が飛び散らないように注意する。尿が皮膚に接触した場合は速やかに石鹸で皮膚を洗う。
手足症候群の予防と対処
1.早期発見のポイント
投与初期は、手のひら、足の裏など普段から圧力や摩擦のかかるところ、角質が厚くなっている踵などを注意して観察する。
2.予防法
1)保湿
普段から保湿剤を用いて皮膚を保護し、乾燥や角化、角質肥厚を防ぐ。保湿剤を塗るタイミングは、手を洗った後、入浴後10分以内、寝る前など。クリームを塗った後は木綿の手袋・靴下を着用して乾燥を防ぐ。
保湿剤は、保湿効果の持続時間、基剤の低刺激性の観点から、乳剤性軟膏(水で洗い流したときに残る油中水型:W/O型)が推奨される(表3)。
分類 | 商品名 | 期待効果 |
---|---|---|
尿素含有製剤 | パスタロン®ソフト軟膏 | 保湿効果 角質肥厚部に対する軟化作用等 |
ヘパリン類似物質含有製剤 | ヒルドイド®ソフト軟膏 |
2)刺激除去
投与開始前~投与期間中は、物理的刺激、水による刺激などから指先や足の裏を保護する。
3.患者への指導
具体的な患者指導のポイントを表4に示す。
①物理的刺激を避ける |
締め付けの強い靴下を着用しない 足に合った柔らかい靴を履く エアロビクス、長時間歩行、ジョギングなどの禁止 包丁の使用、ぞうきん絞りを控える 炊事、水仕事の際にはゴム手袋等を用いて、洗剤類にじかに触れないようにする |
---|---|
②熱刺激を避ける |
熱い風呂やシャワーを控える |
③皮膚の保護 |
保湿剤を塗布する 木綿の厚めの靴下を履く 柔らかい靴の中敷きを使用する |
④2次感染予防 |
清潔を心がける |
⑤直射日光に あたらないようにする |
外出時には日傘、帽子、手袋を使用する 露出部分にはサンスクリーン剤を使用する |
厚生労働省(2010)重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q01.pdf)より引用
4.対処法
手足症候群の場合は、日常生活の中で手足の保湿と保護をする対策が大切である。
近年では、手足症候群が高い頻度で出現する薬剤使用時は、点滴開始前から終了後まで、手や足を冷却すると症状が抑えられることがわかっている(ペットボトルによる簡易冷却法や冷却ジェルの利用などを行う)。
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化学療法を受けているストーマ保有者は、薬剤による有害事象の皮膚障害が発現しやすいが、装具の剥離刺激やスキンケアが原因の可能性もある。
化学療法中のストーマ管理においては、抗がん剤の副作用と管理方法に関する知識をもち、皮膚障害は化学療法の副作用とすぐに判断せず、皮膚障害の原因をアセスメントすることが適切なストーマ管理につながる。
文献
1.祖父江正代:放射線療法中のストーマ保有者におけるミスケアと予防.泌尿器ケア 2013;18(2):31-33.
2.河野薫:がん化学療法を受けている患者のスキンケア.臨牀看護 臨時増刊号 2013;39(4):404-406.
3.柴崎真澄,町島由美,鈴木智博,他:特集 手取り足取り教えます!ストーマケア19の困った解決塾.消化器外科NURSING 2011;16(2):31-35.
4.田口哲也監修:手足症候群 Hand-foot Syndrome Atlas.2007,中外製薬,東京.
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