ガイドラインに基づく まるわかり褥瘡(じょくそう)ケアとは
2016年6月公開

編集・執筆
田中マキ子
山口県立大学副学長
山口県立大学大学院 健康福祉学研究科 教授
2021年7月現在
褥瘡は、“床ずれ”や“床づめ”といわれ、「床ずれができるとお迎えが近い」など、状態が悪いことの指標となる現象でした。しかし昨今、褥瘡は予防できること、治癒させることができる根拠が明らかになり、着実な成果を上げています。こうしたケア成績の向上は画期的な事柄ですが、地域・在宅の療養場面にあっては、まだまだ課題が多い現状も否めません。
私が専門的に褥瘡ケアにかかわるようになって20数年が過ぎます。この間、褥瘡ケアに関する根拠は次から次に明らかにされ、それをケア実践に活用すると、おもしろいように褥瘡がよくなり、こうした根拠に基づく実践のすごさが楽しく、誇らしくも思っていました。こんな経験から「自分の家族には、褥瘡を絶対につくらないぞ」、仮にできてしまっても「必ず治してみせる」という自負がありました。
しかし現実はそう甘くなく、最愛の父の褥瘡を治せずに見送ることになりました。絶食から生じる低栄養のため、仙骨部に褥瘡ができてしまいました。ヘッドアップしてお食事をとる際、少しでもお尻を浮かそうとして、片手でずっとベッドを押しているという状態でした。長く座っておれず、お食事も十分食べられないまま、寝かせるという日々に悔しい思いをしました。私が持っている知識や技術を駆使し、薬剤・物品等も使ってもらいましたが、褥瘡は一進一退で、とうとう治しきれないままでした。今でも、父がお尻を浮かすためにベッドを押している光景を忘れることができません。
ここには、褥瘡ケアの奥深さ、難しさがあると思います。褥瘡治療がいい方向に向かい、治るかなと思うと、ちょっとした油断や適したケアが継続されないことによって後退してしまう。それは、あたかも私たちをあざ笑うかのようにも思えます。根拠がどんどん明らかになっている褥瘡ケアであっても、根拠に基づく実践という基盤のうえに、患者様・療養者様の個人特性を加味し、熱心に・真摯に褥瘡と向き合い、ていねいにケアを進めていくことの重要性が示唆されます。
昨今では、地域在宅ケアが推進されているため、ある程度の方向性が示されると治療が他施設や在宅へ移るなど、いくつかの施設をめぐるという状況が生まれます。そうなると、家族はもちろん訪問看護等、多くの職種と連携をとりながら治療を進めていかなくてはならず、どのようなケアを・どのように進めていくか、褥瘡ケアに関する意見の統一、技術の統一等が図られる必要があります。そのためには、学会等で定めたガイドラインによってエビデンスに基づいた実践を普及させなければなりません。
本書は、予防から治療に関する褥瘡ケアに必要となる内容が網羅されています。コンセプトは、根拠に基づく実践を行うことによって褥瘡が悪化することを防げるということです。本文中に示した「推奨度」の表示は、2015年に日本褥瘡学会が策定した「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」に基づいています。最新のエビデンスに沿った内容とお考えください。
褥瘡は、当事者には痛みを、家族やケア提供者には重圧をもたらします。辛い病気のうえにいっそうの辛さを生じさせないように、褥瘡ケアに関する基本的知識と技術を身につけていただければ幸いです。
田中マキ子 プロフィール
[所属学会]
日本創傷・オストミー・失禁管理学会理事、日本褥瘡学会理事
日本看護科学学会代議員、日本看護研究学会評議員、日本保健医療社会学会評議員、看護理工学会評議員
[編著書]
- 田中マキ子編著:実践に活かす褥瘡ケアガイドブック.日総研出版,2003.
大浦武彦,田中マキ子編集:TIMEの視点による褥瘡ケア-創床環境調整理論に基づくアプローチ.学研メディカル秀潤社,2004. - 田中マキ子編著:褥瘡予防のためのポジショニング.中山書店,2006.
田中マキ子,中村義徳編著:手術患者のためのポジショニング.中山書店,2007. - 田中マキ子監修:事例で学ぶ褥瘡トータルアセスメント-TIMEコンセプトとDESIGN-Rのコラボレーション-.学研メディカル秀潤社,2009.
田中マキ子,下元圭子編著:在宅ケアに活かせる 褥瘡予防のためのポジショニング-やさしい動きと姿勢のつくり方-.中山書店,2009. - 田中マキ子著:らくらく&シンプル ポジショニング.中山書店,2010.
- 田中マキ子他編著:WOCナース実践! 必ず見つかる! ポジショニングのコツ.中山書店,2011.
田中マキ子他編著:症状・状況別 ポジショニングガイド.中山書店,2012.
田中マキ子他編著:ポジショニング学.中山書店,2013. - 田中マキ子編著:深化したTIMEによる褥瘡ケーススタディ.照林社,2013.
田中マキ子編著:日常ケア場面でのポジショニング.照林社,2014.