Part5 褥瘡(じょくそう)を防ぐために重要な体圧管理スモールチェンジと姿勢反射
2023年2月更新(2016年6月公開)
前項で、身体を大きく動かさず小さく動かすことでも、高い効果が得られることを述べました。小さく動かすことは「小さな刺激」ととらえることができます。「小さな刺激」ゆえに自立を促すことが可能になり、「動こう」という意欲につながります。この点について、姿勢反射の観点から述べてみましょう。
姿勢反射は、反射的に筋肉が緊張および収縮することで、身体の位置や姿勢、平衡を維持するものです。例えば、誰かとぶつかったとき、少しのぶつかりでは自分の体制(姿勢)を整えようとする動き=反射が起こります。しかし、強くぶつかると、相手の力に押され、倒れてしまいます。そこで、小さく・弱くぶつかることによって、姿勢反射を刺激し、身体の位置や姿勢の安定を保つことができることがわかります。ポジショニングにおいては、この姿勢反射を引き出すことができれば身体の動きを引き出すことができるのです。
例えば、側臥位をイメージしてみましょう。背中にしっかりとした大きなピローが挿入されると、身体全体が挿入されたピローで支えられるため、挿入されたピローに抵抗するよりも挿入されたピローに体重をあずけるほうが安楽と思うのではないでしょうか。しかし、背中の一部に少し持ち上げられるような感じがするピローが挿入されると、わずかに持ち上げられていることに反射してしっかり押し返し、背中を平らにしようと、少し押し上げられた背中を押し返そうとします(図1)。これは、動きによって生じた不具合に対して改善したいという身体の自然な反応です。
このような反射は、頭部の動きに関係して刺激される感覚器の三半規管や外転神経核や動眼神経核が影響して起こるものといわれています。意識のない方や神経系の機能が障害された方には意味がないと思われがちですが、そのような状況では、重心移動が関係します。先に「重力を利用する」と説明しましたが、アンバランスな刺激が作り出されると、高いところから低いところへ物が移動するように、身体の位置関係が違ってきます。そのため、動きがないことによって生じる拘縮や、拘縮から引き起こされる変形を予防することも可能になります。
このメカニズムは、実は、自動体位変換機能付きエアマットレスの開発に応用されています。マットレスに組み込まれている4つの弯曲形状のエアセル「スモールフローセル」は時間ごとに1つずつ、時計回りにゆっくりと膨張し、ゆっくりと収縮します。それはエアセルの膨らみや縮みによる、違和感を与えにくい小さな体位変換でもあります。同じ部位に圧力がかかり続けることを予防でき、手足の緊張感の軽減にもつながる機能です1。このマットレスには、スモールチェンジの発想と、次項で説明する「間接法」の原理も組み入れられています。
図1 姿勢反射と動きの関係
- 意識があるとき:動きへの意識と意欲を促す
- 意識等がない場合、反射経路に障害がある場合:身体各部の筋緊張の亢進を予防できる
身体の一部が動かされることで筋緊張の亢進を予防できる
引用文献
- パラマウントベッド株式会社ホームページ:ここちあ「利楽flow」紹介ページ.
https://www.paramount.co.jp/cococia_riraku(2022/8/8アクセス)