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Part3 知っておきたい! 褥瘡(じょくそう)の最新知見IAD(失禁関連皮膚炎)の基本的な知識

2023年2月更新(2016年6月公開)

 IADとは、“incontinence associated dermatitis”の略で、「失禁関連皮膚炎」と言われるものです。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の定義によると、「IADは、尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎」1です。この場合の皮膚炎は、皮膚の局所に炎症が存在する広義の概念です。その中には、いわゆる狭義の湿疹・皮膚炎群(おむつ皮膚炎)やアレルギー性接触皮膚炎、物理・化学的皮膚障害、皮膚表在性真菌感染症を含んでいます。私たちが現場でよく目にするのは「おむつ皮膚炎」と呼ばれるものです。
 おむつ皮膚炎は、狭義にはおむつ部に生じた皮膚炎、湿疹を意味しています2。排泄物や洗浄剤など付着する物質による化学的刺激やアレルギー性接触皮膚炎に加えて、高温多湿や擦れること等によって湿疹を起こしたものとされています。
 一方、「おむつかぶれ」とも言われる広義のおむつ皮膚炎は、おむつと接する部位に紅斑や丘疹、水疱、膿疱や鱗屑、浸軟、びらんなど湿疹類似の皮膚症状を生じる状態の総称です。カンジダ感染症などの感染症も含む広い概念で、皮膚科学的な概念とは異なります。IADはどちらかというと広義のおむつ皮膚炎に該当します。
 IADはどのように発生するのでしょうか。失禁によって皮膚に尿や便が接触すると、その水分が角質細胞に保持されて膨潤します。水分過剰になった角層は膨張・崩壊により浸軟状態となります。浸軟した皮膚では、経皮水分蒸散量(transepidermal water loss:TEWL)が上昇します。皮膚のpHは有意に高くなり、さらに皮膚の摩擦係数が増加して、失禁用パッドや衣類・寝具等との摩擦によって表皮が損傷しやすくなり、IADが発生します。

1.IADのアセスメントツール「IAD-set」

 日本創傷・オストミー・失禁管理学会では、臨床現場でのIADのアセスメントツールである「IAD-set」を開発しました(図1)。IAD-setは、排泄物が皮膚に付着する状況にある場合に使用します。評価する部位は、①肛門周囲、②臀裂部、③左臀部、④右臀部、⑤性器部、⑥下腹部/ 恥骨部、⑦左鼠径部、⑧右鼠径部の8部位です。それぞれの部位で、「Ⅰ.皮膚の状態:皮膚障害の程度・カンジダ症の疑い」と「Ⅱ.付着する排泄物のタイプ:便・尿」を評価します。ⅠとⅡの合計点がIAD-setの点数となり、点数が大きいほど重症と判断します。ケアによって点数が減少していけば改善していると判断されます。

図1 IAD-set

図1 IAD-set

日本創傷・オストミー・失禁管理学会編:IAD ベストプラクティス.照林社,東京,2019:13.より引用

2.IAD-setに基づくケアの指針

 同学会では、IAD-setに基づいたケアの指針を「IAD-setアルゴリズム」として示しています。IADの予防・管理の基本は、皮膚に付着した排泄物を除去し、清拭・洗浄と保湿を行うことです。これは標準的なスキンケアです。付着する排泄物に対するスキンケアの構成要素を表1のように示しています。これをベースにしてベストプラクティスで示した基本的なケアを行っていくことが推奨されています。
 IADの予防は、原則的には皮膚に付着した排泄物を除去して、洗浄・清拭、保湿、保護を行うことです。そして、IADが発症した場合には、重症度に応じた適切なケアを提供するとともに、常に観察を続けることが大切です。

表1 付着する排泄物に対するスキンケアの構成要素

表1 付着する排泄物に対するスキンケアの構成要素

日本創傷・オストミー・失禁管理学会編:IAD ベストプラクティス.照林社,東京,2019:21.より引用

引用・参考文献

  1. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会編:IAD ベストプラクティス.照林社,東京:2019;6.
  2. 常深祐一郎編:特集 徹底理解! おむつ皮膚炎.WOC Nursing 2020;8(10).

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