最新ガイドライン、DESIGN-R®2020に基づく 新まるわかり褥瘡ケア

Part5 褥瘡(じょくそう)を防ぐために重要な体圧管理体圧分散用具は、どのように選択する?

2023年2月更新(2016年6月公開)

動画でわかるポジショニングと体位変換の基本と進め方

臨床に生かすポジショニングの基本となる考え方とテクニック

1.臥位の場合のマットレスの選択

 『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』において、「NPIAP(NPUAP)/EPUAP/PPPIAガイドラインでは、褥瘡発生リスクがある患者に対しては標準マットレスの使用ではなく、高仕様フォームマットレスや電動の体圧分散マットレスを使用することが最も強いエビデンスで推奨されている」1と記されています。
 また、体圧分散マットレス・用具の選択は、体圧分散、およびその他の治療機能に対する患者のニーズに基づいて選択されるべきとも指摘され、患者のADLレベル、圧再分配やずれへの対応、マイクロクライメットの観点も加え、総合的な視点から選択することが重要です。
 図1に、体圧分散用具選択の目安に関するフローチャートを示しました2。体位変換が頻回に行えない場合は、圧切替型エアマットレスの使用が推奨されています3。また、「自力で体位変換できない人」には、圧切替型エアマットレスのなかでも交換型あるいは上敷型二層式マットレスの使用が望ましいとされています。

図1 体圧分散用具の選択フローチャート

図1 体圧分散用具の選択フローチャート

日本褥瘡学会編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック- 第3版.照林社,東京,2015:58.より引用

1)褥瘡予防のためのマットレス

 体圧分散用具の選択は、可動性・活動性、病期等の側面から検討されますが、褥瘡発生の大半は高齢者であるため、『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』においては、高齢者の褥瘡予防のための検討が中心になされています3。高齢者の褥瘡予防のために「交換圧切替型/上敷圧切替型多層式エアマットレスを推奨する」ことは推奨の強さ「1B」、高齢者の褥瘡予防のために「交換静止型フォームマットレスを提案する」ことは推奨の強さ「2B」、高齢者の褥瘡予防のために「上敷圧切替型単層式/静止型エアマットレスを提案する」ことは推奨の強さ「2B」となっています。
 これらのエビデンスは、国外の論文からの検討であり、日本人の高齢者と比較すると体格の違いがあることや、検討に用いられているマットレスがわが国にはないことなどの事情も勘案する必要があるでしょう。国内における寝たきり高齢者に対する検討では、上敷圧切替型二層式・単層式エアマットレスの使用で有意に褥瘡発生率が低いという報告もあります。二層式エアマットレスとは、セルが二層に分かれていて、セルが完全に収縮することがないのが特徴です。そのため、円背や関節拘縮、顕著な病的骨突出がある高齢者に効果があります(図2)。
 また、三層式エアマットレスはわが国で開発されたもので、二層式エアマットレスと同じような効果が期待できます。

図2 二層式エアマットレス(二層式セル):エアマスター トライセルE(株式会社ケープ)

図2 二層式エアマットレス(二層式セル)

図2 二層式エアマットレス(二層式セル)

2)褥瘡を保有する場合に選択したいマットレス

 褥瘡が発生した後のエアマットレスの選択について、『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』では次のように示されています。

●DESIGN-R®で「d1」「d2」褥瘡の治癒促進には上敷静止型エアマットレスを使用してもよい(推奨度C1)

●「d2」以上の褥瘡の治癒促進のためには、マット内圧自動調整機能付交換切替型エアマットレス、圧切替型ラージエアセルマットレス、二層式エアマットレス、低圧保持用エアマットレスを使用してもよい(推奨度C1)

 D3~D5の褥瘡または複数部位の褥瘡には、空気流動型ベッド、またはローエアロスベッドの使用が強く推奨されています(推奨度A)。空気流動型ベッドとは、内部のビーズを空気の力で流動させ圧再分配を行う機能をもつベッドです(図3)。
 ICUやCCUに入院しているクリティカルな状態にある褥瘡患者には、低圧保持用エアマットレス(図4)の使用が勧められています(推奨度B)。そして、ローエアロスベッド、上敷圧切替型エアマットレス、交換静止型エアマットレスを使用してもよい(推奨度C1)となっています。集中ケアを受けている患者は、循環動態が不良のため十分な体位変換ができていないことも多く、こうしたエアマットレスの使用は不可欠といえます。
 また、周術期においては、さらに体圧分散やずれ力低減の必要性が高まります。『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』では「手術台に体圧分散マットレスや用具を使用するよう強く勧められる」(推奨度A)、「術中に、マットレス以外に踵骨部、肘部等の突出部にゲルまたは粘弾性パッドを使用するよう勧められる」(推奨度B)となっています(図5、6)。

図3 空気流動型ベッド:エアーフローティングサポートシステム LIFE-ISLAND7(ケイセイ医科工業株式会社)

図3 空気流動型ベッド

図3 空気流動型ベッド

図4 低圧保持用エアマットレス:マイクロクライメイト ビッグセル アイズ(株式会社ケープ)

図4 低圧保持用エアマットレス

図4 低圧保持用エアマットレス

図5 手術台用のマットレスの例:ケープサージカルシリーズ(株式会社ケープ)

図5 手術台用のマットレスの例

図5 手術台用のマットレスの例

図6 手術台の上に置くゲル素材のパッド:アクションパッド®(アクション ジャパン株式会社)

図6 手術台の上に置くゲル素材のパッド

図6 手術台の上に置くゲル素材のパッド

ずれ力吸収効果が高いのが特長

2.座位の場合の体圧分散用具の選択

 座位の場合には、アライメント(体軸の自然な流れ)を重視して座位姿勢を維持することが重要です。90度座位では、骨盤が前傾すると恥骨部に、骨盤中間位では坐骨結節部に、そして骨盤後傾すると尾骨部への接触圧が高まるといわれています4。座位姿勢と負荷のかかり具合を図7に示しました。座位姿勢は、褥瘡発生以外にも座り心地と関連します。それらの要素を考慮して体圧分散用具を選択します。
 高齢者には脊髄損傷者に使用される体圧再分散クッションやダイナミック型クッションの使用を検討しても良いと『褥瘡ガイドブック(第2版)』に示されています3。これらのクッションを使用する際には、個別の調整はもとより、カバーの前後、表裏にも注意を要すること、アームサポートの高さ調整も可能な車椅子の使用が勧められます。
 高齢者の車椅子座位でよく起こる現象に「仙骨座り」があると言われ、尾骨部に褥瘡が多発します。これは、ハムストリングスという下腿から骨盤に付着する筋が短縮することが原因のため、フットレストを内側に入れ(膝・踵関節90度)、ハムストリングスが緩むようにすると良いとされています(図8)。

図7 座位姿勢と負荷のかかり方

図7 座位姿勢と負荷のかかり方

日本褥瘡学会編:褥瘡ガイドブック-第2版.照林社,東京,2015:190.を元に作成

図8 座位と姿勢の位置関係

図8 座位と姿勢の位置関係

図8 座位と姿勢の位置関係

引用文献

  1. NPUAP, EPUAP, PPPIA:Prevention and Treatment of Pressure Ulcers:Clinical Practice Guideline, 2014.
  2. 日本褥瘡学会編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック-第3版.照林社,東京,2015:58.
  3. 日本褥瘡学会編:褥瘡ガイドブック-第2版.照林社,東京,2015:192−194.
  4. 日本褥瘡学会編:褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版.照林社,東京,86:2022.

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