Part7 褥瘡(じょくそう)治療・ケアのカギを握るドレッシング材・外用薬の使い方外用薬が効くメカニズムを知って効果的に使用する
2023年2月更新(2016年6月公開)
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在宅褥瘡への外用薬の使い方
外用薬にはさまざまな種類がありますので、その薬理作用を知って、創の状態に沿った適切な使い方をする必要があります。まず、外用薬は「主薬」と「基剤」からできていることを理解しましょう(図1)。「主薬」というのは薬効成分のことで、ステロイド、抗生物質など薬剤の効果を発揮する部分です。一方、「基剤」には薬効はありません。配合されている薬剤が効果を表すように、薬剤を保持する役割をもっています。創の治癒において湿潤環境が重要であることはすでに何度も述べてきましたが、湿潤環境の保持に「基剤」の役割は欠かせません。創傷は表皮が欠損している場合が多いので、創面に直接塗布される外用薬の基剤は特に大切です。外用薬を選択する際には、主薬と同時に基剤についてよく知っておく必要があります。
図1 外用薬の構成(主薬と基剤)
1.基剤の特徴と分類
基剤は「疎水性基剤」と「親水性基剤」に分けられます(図2)。「疎水性基剤」は「油脂性基剤」ともいわれ、油分だけでできていて水となじみません。そのため、少量の滲出液を創面にとどめておくことができ、保湿効果、創の保護効果が期待できます。創の上皮化に使われる基剤です。
水と親和性の高い「親水性基剤」は、さらに「乳剤性基剤」と「水溶性基剤」に分けられます。「乳剤性基剤」は、水と油を界面活性剤で混(こん)じたもので、「水中油型(O/W 型):水分の中に油を含むもの」と「油中水型(W/O型):油分の中に水分を含むもの」に分けられます。
「水中油型(O/W 型)」は、乾燥した創面に水分を補給するもので、滲出液の少ない乾燥した創面が適応になります。「油中水型(W/O型)」は含有する水分が少なく補水機能は弱いため滲出液が適正な創に用いられます。
「水溶性基剤」は、水分を吸収して溶解するものです。滲出液を吸収しますので、滲出液の多い創に適しています。基剤による外用薬の分類とその主な種類を表1に示しました。
図2 基剤の分類
表1 外用薬の基剤による分類と機能
分類 | 基剤の機能 | 基剤の種類 | 外用薬 (代表的な製品) |
||
---|---|---|---|---|---|
疎水性基剤 | 油脂性基剤 | 保湿 |
白色ワセリン、 プラスティベース |
亜鉛華軟膏 アズノール® 軟膏 プロスタンディン® 軟膏 |
|
親水性基剤 | 乳剤性基剤 | 水中油型 (O/W型) |
補水 |
多種類の添加物による乳剤性軟膏 | オルセノン® 軟膏、 ゲーベン® クリーム |
油中水型 (W/O型) |
保湿 |
多種類の添加物による乳剤性軟膏 | リフラップ® 軟膏※、 ソルコセリル® 軟膏 |
||
水溶性基剤 | 吸水 |
マグロゴールなど | アクトシン® 軟膏、 カデックス® 軟膏、 ブロメライン軟膏、 ユーパスタコーワ軟膏 |
髙橋眞一:外用薬-“ これだけ知って” 選択の基準.褥瘡・創傷のドレッシング材・外用薬の選び方と使い方 第2 版.照林社,東京;2021:31.を元に作成
2.主薬の特徴と種類
褥瘡に使われる外用薬の主薬に期待される薬効は次のようなものです。①壊死組織の除去作用、②抗菌作用、③肉芽形成・上皮化作用、④その他の作用。
それらの薬効に応じて、DESIGN-R®2020の「大文字」を「小文字」にしていくような薬剤の選択と使用をしていく必要があります。つまり、①壊死組織の除去作用は「N→n」、②抗菌作用は「I→i」、③肉芽形成は「G→g」、上皮化作用の結果「S→s」となります。
- ①壊死組織の除去作用
壊死組織除去作用がある主薬は、「カデキソマー(カデックス®軟膏)」と「タンパク分解酵素(ブロメライン軟膏)」です。ゲーベン®クリームの壊死除去作用は「主薬」のためではなく「基剤」の補水による壊死の融解促進によるものと考えられます。 - ②抗菌作用
抗菌作用のある主薬は、ヨウ素・ヨードなどの「ヨード系化合物」(カデックス®軟膏、ヨードコート®軟膏、ユーパスタコーワ軟膏)と「銀」を含むもの(ゲーベン®クリーム)です。 - ③肉芽形成・上皮化作用
肉芽形成促進作用、上皮化促進作用をもつ主薬はたくさんあります。
褥瘡外用薬の作用別分類を一覧表に示しました(表2)。このような基剤と主薬の効果を理解したうえで、適切な外用薬を選択することが必要です。外用薬をたっぷりと(厚さ約3mm程度)塗布し、滲出液の状況を踏まえて1日1回以上の塗布を行います。
表2 褥瘡に用いられる外用薬の作用別分類
一般名 | 代表的な 商品名 |
剤形 | 基剤の 特徴 |
作用 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
抗菌 | 壊死組織除去 | 肉芽 形成 |
上皮 形成 |
||||
精製白糖・ポビドンヨード | ユーパスタコーワ軟膏 | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | ○ | ○ | |
カデキソマー・ヨウ素 | カデックス®軟膏 | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | ○ | ||
ヨウ素軟膏 | ヨードコート®軟膏 | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | |||
ヨードホルム | ヨードホルムガーゼ | - | - | ○ | ○ | ||
スルファジアジン銀 | ゲーベン®クリーム | 乳剤性基剤 (水中油型) |
補水 | ○ | ○ | ||
ブロメライン | ブロメライン軟膏 | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | |||
デキストラノマー | デブリサン®ペースト | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | |||
トラフェルミン | フィブラスト®スプレー | - | - | ○ | ○ | ||
トレチノイントコフェリル | オルセノン®軟膏 | 乳剤性基剤 (水中油型) |
補水 | ○ | ○ | ||
ブクラデシンナトリウム | アクトシン®軟膏 | 水溶性基剤 | 吸水 | ○ | ○ | ||
アルプロスタジル アルファデクス | プロスタンディン®軟膏 | 油脂性基剤 | 保湿 | ○ | ○ | ||
ジメチルイソプロピルアズレン | アズノール®軟膏 | 油脂性基剤 | 保湿 | ○ | |||
酸化亜鉛 | 亜鉛華軟膏 | 油脂性基剤 | 保湿 | ○ |
日本褥瘡学会編:在宅褥瘡テキストブック.照林社,東京,2020:127.より引用
3.最新ガイドラインでの取り扱い
『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』では、以下のように「創の大きさ」について、皮膚潰瘍治療薬全般の有用性を提示しています。
CQ1 褥瘡の大きさを縮小させるための外用薬として皮膚潰瘍治療薬は有用か?
推奨文 褥瘡の大きさを縮小させるための外用薬として皮膚潰瘍治療薬を推奨する
推奨の強さ 1B
外用薬は薬効成分や基剤の違いによりそれぞれが特性を有しており、褥瘡に対して皮膚潰瘍治療薬を使用する場合は創部の状態に応じて選択することが望ましい、とされています。「滲出液の量」、「肉芽形成の状態」、「感染の状態」は、文献上はエビデンスが十分示されていないものの、言うまでもなく皮膚潰瘍治療薬を選択する際に考慮すべき重要な項目であり、将来的にエビデンスが充足した場合は本臨床課題の主要アウトカムとして推奨度をつけて採用すべき項目である、と明示されています。