Part9 褥瘡(じょくそう)を治すために必要な栄養と痛みの知識
褥瘡(じょくそう)の「痛み」にどう対応する?2016年6月公開
褥瘡アセスメントに必須!改定された「DESIGN-R®2020」
ここだけは知っておきたいポイント
仙骨部の深くて大きな褥瘡を見たとき、「この患者は痛くないのかな?」と思った方は多いでしょう。高齢患者の中には、意識状態が明瞭でなかったり、訴えをはっきりと伝えることができなったりする人が多いことから、医療従事者は「褥瘡の痛み」についてあまり深刻に考えていないことが多いようです。しかし、痛みは最大の苦痛です。褥瘡患者のQOLを維持・向上させるためには、痛みの有無と程度を知って、疼痛緩和のためにできる限りの治療やケアを行うことが重要です。
文献によると、ステージⅡ、Ⅲ、Ⅳの褥瘡をもっている患者の75%が「緩やかな痛み」を、18%が「耐えがたい痛み」をもっていると報告されています1。このことから、浅い褥瘡でも患者は痛みを感じており、深い褥瘡ほど強い痛みがあることがわかっています。特に、DTIなど炎症期にある褥瘡は強い痛みを伴います。そこで、すべての褥瘡において痛みのアセスメントは不可欠になります。
ガイドラインによると、痛みについては「処置時および安静時を含めた処置以外のときに評価してもよい(推奨度C1)」とされています。痛みの評価は、表6に挙げた項目について行います。
表6 褥瘡の痛みのアセスメント
いつ? |
|
---|---|
どこが? |
|
どのように? |
|
どの程度? |
|
緩和因子と増強因子 |
|
祖父江正代:創部の痛みのマネジメント.治りにくい創傷の治療とケア,照林社,東京;2011:188.より引用
図5 視覚的アナログ尺度(VAS: visual analogue scale)
図6 数値的評価尺度(NRS: numerical rating scale)
図7 フェイススケール(FRS: Wong-Baker faces pain rating scale)
急性期褥瘡では特に強い痛みを訴える場合があるので、鎮痛薬を有効に使うことも必要になります。また、ドレッシング材の中には、痛みを緩和するはたらきをもつものもあります(表7)。それらを効果的に使って、患者の痛みを取る治療・ケアを優先させましょう。
また、ドレッシング材交換時の痛みを除去することも大切です。ドレッシング材交換時の身体的痛みは、表8のような状況が考えられます。それぞれの状況に対して、トータルペインの考え方により有効なアプローチを行う必要があります(表9)。
表7 痛みの緩和が期待できる代表的なドレッシング材
ハイドロジェル(真皮に至る創傷用) | |
---|---|
ビューゲル® |
|
ポリウレタンフォーム(皮下組織に至る創傷用) | |
メピレックス®ボーダー |
|
ハイドロサイト®ADジェントル |
|
表8 ドレッシング材交換時の痛みの状況
|
祖父江正代:ドレッシング材交換時の痛みのマネジメント.エキスパートナース2010;26(14):48.
表9 痛みを考慮したドレッシング材交換法
ケア方法 | 留意点 |
---|---|
①前回の処置の際の痛みの状況を再確認する |
|
②①をもとに処置を実施してよいか判断する | |
③痛みが予測されるような処置や、主疾患によって処置時の体位で痛みが予測される場合は、事前に鎮痛薬を使用する | |
④患者にどのような処置を行うかを説明する | |
⑤患者の主疾患も考慮して骨や筋肉、関節などに痛みのない体位をとり、ポジショニングピローで身体を支える | |
⑥ドレッシング材を剥離する |
|
⑦創と創周囲皮膚を弱酸性洗浄剤で洗浄する |
|
⑧ガーゼで皮膚を押さえて包み込むようにして水分を拭き取る | |
⑨粘着性ドレッシング材や医療用粘着テープは引っ張らないよう、そのまま皮膚に添わせるようにして貼付する | |
⑩ドレッシング材交換時に痛みがなかったか、ある場合はいつ、どこが、どのように痛むのか確認する |
*注意点:処置中は患者に痛みがないか確認しながら実施する。医療者間で患者の処置に無関係な話をしない。
祖父江正代:ドレッシング材交換時の痛みのマネジメント.エキスパートナース2010;26(14):48.よりまとめた
引用文献
- Szor JK, Bourguignon C: Description of pressure ulcer pain at rest and dressing change. J Wound Ostomy Continence Nurs. 26(3):115-120, 1999.