最新ガイドライン、DESIGN-R®2020に基づく 新まるわかり褥瘡ケア

Part3 知っておきたい! 褥瘡(じょくそう)の最新知見新しい創傷管理「Wound hygiene(創傷衛生)」の考え方

2023年2月更新(2016年6月公開)

 創傷管理の新しい概念「Wound hygiene(創傷衛生)」が注目されています。これは、2020年に英国の創傷管理の専門雑誌『International Wound Journal』に掲載されたコンセンサスドキュメントにより広く知られるようになったものです1
 Wound hygieneのコンセプトでは、慢性静脈不全症(chronic venous insufficiency)や末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)などのすべての基礎疾患に対して標準的な治療を行えば、創傷バイオフィルムを管理できるとされています。近年、バイオフィルムは多くの難治性創傷に悪影響を与えていることがわかってきており、バイオフィルムに早期から対処できると、治癒の速度を促進させること、それがひいては創傷ケアにかかわる労力の負担や経済的負担の軽減、創傷をもつ人の回復への満足感の獲得などにつながり、多くのメリットをもたらすとされています。バイオフィルムが主な要因とされるクリティカルコロナイゼーション(臨界的定着)への取り組みはわが国でも重要なものと認識され、DESIGN-R®2020でも「臨界的定着疑い」として取り入れられています。
 Wound hygieneを推進するためには、以下の4つのステップを踏むことが推奨されています。「①cleanse:洗浄」「②debride:デブリードマン」「③refashion:創縁の新鮮化」「④dress:創傷の被覆」 の4つです(図1)。
 これら4つのステップの内容を表1に示しました。中でも特に注目されるのが、「①cleanse:洗浄」です。これまで行われていた創の洗浄方法では不十分であることが指摘されています。生理食塩水や微温湯を用いた流水による洗浄では、創面に付着したバイオフィルムや創面をコーティングするように付着している蛋白質成分の異物を除去することができないとされ、創の中も界面活性剤を含んだ創傷洗浄剤で強く洗うことが推奨されています。それらの例を図2に示しました。

図1 Wound hygieneの4つのステップ

図1 Wound hygieneの4つのステップ

図1 Wound hygieneの4つのステップ

Murphy C, Atkin L, Swanson T, et al:International consensus document. Defying hard-to-heal wounds with an early antibiofi lm intervention strategy:wound hygiene. J Wound Care 2020;29(Suppl 3b):S9.(日本語訳)市岡滋,真田弘美,館正弘,他:早期の抗バイオフィルム介入戦略で難治性創傷を克服する:Wound hygiene/ 創傷衛生.コンバテック ジャパン,東京,2020.

表1 Wound hygieneの4つのステップの内容

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内容 活動 ツール 論理的根拠

①cleanse

洗浄

  • 創底を十分に洗浄して、表面の壊死組織、創傷の組織の残骸、異物の破片、バイオフィルムを除去する。創周囲皮膚を洗浄して、鱗屑や胼胝を取り除き、その範囲の汚染を除去する。必要に応じておだやかな力で、創傷周囲10~20cm範囲の皮膚を洗浄する。理想的には、表面と創周囲の洗浄を助けるために、消毒薬や抗菌薬入りの洗浄液や界面活性剤溶液を使用する
  • ガーゼまたは市販のクレンジングパッド
  • 創傷および創周囲皮膚のための消毒剤または抗菌洗浄剤、または界面活性剤
  • 医療用皮膚クレンジングワイプ
  • 鉗子
  • 生理食塩水や水ですすいだり洗い流すだけでは、バイオフィルムは除去できない1。意図的に洗浄し、適切なツールや洗浄剤を用いて洗浄することで、創底をデブリードマンのために準備することができる。創周囲皮膚を洗浄して汚染源を取り除くことが不可欠である

②debride

デブリードマン

  • 付着しているすべての壊死組織、創傷内の異物およびバイオフィルムを除去する。点状出血が生じるまで続け(患者がそれを承知し、耐えることができる場合、および各国でその行為が許可されている場合)、創底を創傷被覆材の効果が最適になるコンディションにしておく。残っている組織の残骸を取り除くために、デブリードマンの後、創底を再度洗浄しなければならない
  • 機械的、シャープ、超音波、または生物学的なデブリードマン
  • 創傷と創周囲皮膚をデブリードマン後に洗浄するには、消毒薬や抗菌薬入りの洗浄液、または界面活性剤を使用する
  • 自己融解性デブリードマンのように点状出血しないデブリードマンでは、物理的にバイオフィルムを除去できない場合がある。バイオフィルムを分解・破壊するためには、機械的な力とせん断力が必要である1。これは、界面活性剤、消毒薬、抗菌薬を使用することでも最適化することができる

③refashion

創縁の新鮮化

  • 点状出血が起こるまで、創縁を頻繁に評価し、こする。丸まった組織や下に巻き込まれた組織、乾燥した組織、肥厚した組織、壊死組織を除去して、創縁に定着しているバイオフィルムを死滅させるか、最小限に抑える
  • アクティブ(機械的)、シャープ、超音波、または生物学的デブリードマン
  • 健康な組織を露出させるために、創縁にある胼胝、角質増殖性の組織の残骸および老化細胞を除去することは、健康な組織の進展を可能にする

④dress

創傷の被覆

  • 残存するバイオフィルムに対処し汚染や再定着を防ぎ、その結果、バイオフィルムの再形成を防ぐことができる被覆材を選択する。また、滲出液を効果的に管理し、治癒を促進する必要がある
  • さらに滲出液を吸収して保持することができる抗バイオフィルム剤や抗菌性創傷被覆材を選ぶ
  • バイオフィルムは急速に再形成する可能性があり、デブリードマンを繰り返すだけでは、その再生を防ぐことはできない。バイオフィルムが物理的に破壊された後に、有効な外用抗菌薬や抗バイオフィルム剤を適用することで、残留バイオフィルムに対処し、その再形成を抑制することができる2
  1. 1.Hoon R, Rani SA, Wang L, et al:Antimicrobial activity comparison of pure hypochlorous acid(0.01%)with other wound and skin cleansers at non-toxic concentrations. SAWC Spring and WHS 2013.
  2. 2.Percival SL, Chen R, Mayer D, et al:Mode of action of poloxamer-based surfactants in wound care and efficacy on biofilms. Int Wound J 2018;15:749–755.https://doi.org/10.1111/iwj.12922(2022/1/20 アクセス)

Murphy C, Atkin L, Swanson T, et al:International consensus document. Defying hard-to-heal wounds with an early antibiofilm intervention strategy:wound hygiene. J Wound Care 2020;29(Suppl 3b):S10.
(日本語訳)市岡滋,真田弘美,館正弘,他:早期の抗バイオフィルム介入戦略で難治性創傷を克服する:Wound hygiene/創傷衛生.コンバテック ジャパン,東京,2020:S10.より引用

図2 界面活性剤を含んだドレッシング材や創傷洗浄剤

アクアセル®Ag アドバンテージ
(コンバテック ジャパン株式会社)

Sorbact® コンプレス
(センチュリーメディカル株式会社)

プロントザン
(ビー・ブラウンエースクラップ株式会社)

ハイドロサイト® ジェントル銀
(スミス・アンド・ネフュー株式会社)

引用文献

  1. Murphy C, Atkin L, Swanson T, et al:International consensus document. Defying hard-to-heal wounds with an early antibiofi lm intervention strategy:wound hygiene. J Wound Care 2020;29(Suppl 3b):S1-S26.(日本語訳)市岡滋,真田弘美,館正弘,他:早期の抗バイオフィルム介入戦略で難治性創傷を克服する:Wound hygiene/ 創傷衛生.コンバテック ジャパン,東京,2020.

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