Part5 褥瘡(じょくそう)を治すための基本的な知識
ちょっと難しいけれど理解したい創面環境調整(WBP)とTIME2016年6月公開
褥瘡アセスメントに必須!改定された「DESIGN-R®2020」
ここだけは知っておきたいポイント
なぜ、急性創傷は治りやすく、慢性創傷は治りにくいのでしょうか。その要因は、個体要因や環境要因を含めて非常に多岐にわたるものです。そこで、慢性創傷の治癒遅延の要因を分析して、2003年にSchultzらが発表したのが「創面環境調整(wound bed preparation:WBP)」という概念です。これは、創傷治癒を妨げる因子を取り除き、治りにくい状況を是正するために創面環境を整えるという考え方です。具体的には、「壊死組織の除去」「細菌負荷の軽減」「創部の乾燥防止」「過剰な滲出液の制御」「ポケットや辺縁の処理」を行います。
WBPでは、評価・是正されるべき4つの項目を挙げています。「Tissue(組織)」「Infection/inflammation(感染/炎症)」「Moisture(湿潤)」「Edge of wound(創辺縁)」の頭文字をとって、「TIME」と呼んでいます。WBPの具体的な方策である「Principle of WBP(WBPの原則)」が「WBPアルゴリズム」(図7)へと発展し「TIMEコンセプト」(表2)がつくられました。
WBPアルゴリズムでは、まず患者アセスメントを行います。患者アセスメントによって明らかになった全身的(患者)要因と局所(創傷)要因を踏まえて、上記の「TIME」の項目をマネジメントするという方法です。
図7 WBPアルゴリズム
松崎恭一:Wound bed preparationとTIME.市岡滋,須釜淳子,治りにくい創傷の治療とケア,照林社,東京,2011:13.より引用
Flanagan M. The philosophy of wound bed preparation in clinical practice. Smith &Nephew Medical Ltd, 2003:1-34より引用し訳出のうえ改変
表2 TIME-Principle of WBPコンセプト(日本語版)
臨床的観察 | 病態生理 | WBPの臨床的介入 | 介入の効果 | 臨床的アウトカム |
---|---|---|---|---|
Tissue non-viable or deficient 活性のない組織または組織の損傷 |
マトリックス(細胞間質)の損傷と細胞残屑による治癒遅延 | デブリードマン(一時的または継続的)
|
創面の回復 細胞外マトリックスプロテイン機能の回復 |
創面の活性化 |
Infection or inflammation 感染または炎症 |
高いバクテリア数または炎症期の遷延 ↑炎症性サイトカイン ↑プロテアーゼ活性 ↓成長因子活性 |
感染創の除去(局所/全身)
|
低いバクテリア数または炎症のコントロール ↓炎症性サイトカイン ↓プロテアーゼ活性 ↑成長因子活性 |
バクテリアのバランスと炎症の軽減 |
Moisture imbalance 湿潤のアンバランス |
乾燥による表皮細胞の遊走の遅延
|
適度な湿潤バランスをもたらすドレッシング材の使用
|
表皮細胞遊走の回復、乾燥の予防、浮腫や過剰な滲出液のコントロール、創縁の浸軟防止 | 湿潤バランス |
Edge of wound-non advancing or under - mined 創辺縁の治癒遅延または皮下ポケット |
表皮細胞の遊走がない。細胞外マトリックスにおける反応性創傷細胞の不在と異常、あるいは異常なプロテアーゼ活性 | 原因の再評価または正しい治療の検討
|
表皮細胞と反応性創傷細胞の遊走 適切なプロテアーゼプロフィールの回復 |
創辺縁の(治癒)促進 |
田中マキ子:創床環境調整(WBP)とDESIGNスケール.TIMEの視点による褥瘡ケア 創床環境調整理論に基づくアプローチ,学研メディカル秀潤社,東京,2004:9.より引用
TIMEコンセプトはその後10年を経て、現在のベストプラクティスへの反映を検討してアップデートされています。当初のTIMEコンセプトは創傷の評価段階に過ぎませんでしたが、現在は、治療・実施・モニタリング・評価からなる管理段階に至っているといえるでしょう。