最新ガイドライン、DESIGN-R®2020に基づく 新まるわかり褥瘡ケア

Part10 褥瘡(じょくそう)を治すために必要な栄養と痛みの知識栄養補給のためのさまざまな方法

2023年2月更新(2016年6月公開)

 褥瘡発生前の低栄養状態(protein energy malnutrition:PEM)の原因としては、前項で紹介したサルコペニア、フレイルの他、ロコモティブシンドロームが挙げられます。ロコモティブシンドロームとは、筋肉や骨、関節、軟骨、椎間板などの運動器の障害によって運動機能の低下をきたしている状態です。低栄養状態は、マラスムス、クワシオルコル、マラスムス・クワシオルコル混合型の3型に分類されます。
 低栄養状態の改善は褥瘡予防・治療の両面において重要ですが、『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』では、褥瘡治療と栄養に関して以下のように記載されています。

CQ8 褥瘡の治療に高エネルギー・高蛋白の栄養補給は有用か?

推奨文 褥瘡の治療に高エネルギー・高蛋白の栄養補給を提案する。

推奨の強さ 2C

 褥瘡治療のためのエネルギー投与量のめやすはどのくらいでしょうか。同ガイドラインでは、少なくともエネルギー投与量30g/kg/日以上、蛋白質1.0g/kg/日以上とされています。ちなみに、NPUAP/EPUAP/PPPIAガイドラインでは、「エネルギー量30~35kcal/kg/日」「蛋白質は疾患を考慮したうえで1.25~1.5g/kg/日」が推奨量とされ、一般的な必要量を投与した場合は、維持水分量「25~40mL/kg/日」とされています。
 栄養を摂取するための最良の方法は「経口摂取」です。「口から食べる」ことは単に栄養補給だけでなく生活者としてのQOLに大きく影響します。嚥下障害などによって口から食べられない場合は、「経管栄養」か「静脈栄養」によって栄養補給を行います。経管栄養は、鼻から管を入れて胃内に栄養剤を入れる経鼻経管栄養法、胃や腸に直接管をつなげて栄養補給を行う経腸栄養法などのことで、PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術:percutaneous endoscopic gastrostomy)は内視鏡を使って胃瘻を造る方法です。
 静脈栄養は、中心静脈栄養と末梢静脈栄養に分けられます。中心静脈ルートからは生命維持に必要な高カロリー輸液を投与します。末梢静脈ルートからは高浸透圧となる高カロリー輸液は投与できません。看護師の特定行為の1つでもあるPICCは「末梢挿入式中心静脈栄養:peripherally inserted central venous catheter」で、挿入部位は末梢ですが、カテーテルの先端は中心静脈に留置される中心静脈栄養です。PICCは、その挿入部位から末梢静脈栄養と混同されがちですが、あくまでも中心静脈栄養であることに注意してください。静脈栄養では長期間にわたって腸管を使用しないためバクテリアルトランスロケーションをきたす恐れがあります。腸管粘膜の萎縮を防ぐためにL-グルタミンなどの栄養基質の投与が必要になります。
 栄養投与経路の第一選択は、あくまでも「経腸栄養」です。原則は、「腸が機能している場合は腸を使う」ことです。経腸栄養は静脈栄養に比べて生理的であり、消化管本来の機能である消化吸収、あるいは腸管免疫系の機能が維持できるためです(図1)。
 褥瘡患者の栄養管理で、もう1つ重要なのが特定の栄養素の補給です。中でも「亜鉛」は他の特定の栄養素とともに投与すると創傷治癒に寄与するとされています。NPUAP/EPUAP/PPPIAガイドラインでは、亜鉛欠乏症がみられる場合は40mg/日を超えないレベルで投与することが勧められています。
 また、アルギニンは侵襲下での条件付き必須アミノ酸で、蛋白質、コラーゲンの合成促進、血管拡張作用、免疫細胞の賦活化などの効果が期待されています。アルギニンを含んだ栄養補助食品の摂取によって褥瘡治癒が進んだという報告もあります。
 その他、コラーゲン加水分解物の補給によって褥瘡治癒促進効果が報告されており、現場では各種サプリメントの補給が進んでいます。

図1 栄養の投与経路の選択

図1 栄養の投与経路の選択

ASPEN Board of Directors and the Clinical Guidelines Task Force:Guidelines for the Use of Parenteral and Enteral Nutrition in Adult and Pediatric Patients. JPEN 2002;26(1):8SA.

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