Part4 褥瘡(じょくそう)状態評価の最新ツール DESIGN-R®(デザインアール)2020を理解する「臨界的定着疑い」の見方、付け方
この章は、一般社団法人日本褥瘡学会編集『改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント』
の内容をもとに具体的に解説しています。
2023年2月更新(2016年6月公開)
DESIGN-R®2020に応じた在宅褥瘡への外用薬の選び方
DESIGN-R®の「I:炎症/ 感染」は、その評価結果によって局所の創傷ケア方法に大きな違いが出てきます。これまで、大文字の「I」は、「3:局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候、膿、悪臭など)」と「9:全身的影響あり(発熱など)」だけでしたが、DESIGN-R®2020では、「3C:臨界的定着疑い(創面にぬめりがあり、滲出液が多い。肉芽があれば、浮腫性で脆弱など)」の項目が新たに加わりました(図1)。「3:局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候、膿、悪臭など)」はそのままで、「3C」か「3」かいずれかを記載します。いずれの場合も点数は3点となります。表記の例は以下のようになります。
[例]D3-E6s6I3CG6n0p0:21点
図1 DESIGN-R®2020における「i/I」の項目
「臨界的定着」とは、「定着」と「感染」の中間にあって、両者のバランスによって定着よりも細菌数が多くなった感染へと移行しかけた状態です。臨界的定着は「クリティカルコロナイゼーション」とも言われ、日本褥瘡学会では以下のように定義しています。
「critical colonization 創部の微生物学的環境を、これまでの無菌あるいは有菌という捉え方から、両者を連続的に捉えるのが主流となっている(bacterial balanceの概念)。 すなわち、創部の有菌状態を汚染(contamination)、定着(colonization)、感染(infection)というように連続的に捉え、その菌の創部への負担(bacterial burden)と生体側の抵抗力のバランスにより感染が生じるとする考え方である。臨界的定着はその中の定着と感染の間に位置し、両者のバランスにより定着よりも細菌数が多くなり感染へと移行しかけた状態を指す。」1
この臨界的定着状態を作り出す原因としてバイオフィルムの存在が明らかになってきました。バイオフィルムとは、細菌が産生する細胞外高分子物質(extracellular polymeric substance:EPS)によって、創部に存在する細菌が産生する宿主免疫や抗菌薬、消毒薬から防御される状態を指すといわれています。臨界的定着状態の褥瘡は、肉眼的には明らかではないものの炎症を生じており、バイオフィルムを伴う細菌による感染が生じていると考えられます。
現状で「臨界的定着疑い」と判断されているのは、肉眼的には感染徴候はないものの治癒が停滞している状態、経験的には2週間以上経過しても治癒が進まないときに、消毒薬/抗菌薬を使用すると治癒が促進する場合を指すことが多いとされています。しかし、まったく感染徴候が出ないわけではないため、臨床での判断指標として、「創面にぬめりがあり、滲出液が多い。肉芽があれば、浮腫性で脆弱など。」と表記しています。以下に詳細を示します。
- ①視診・触診
創面にはぬめりがあり、炎症が持続しているため滲出液が多くなります。また、肉芽が形成されている場合は、浮腫性で脆弱です(図2)。図2 臨界的定着疑いの褥瘡
創面のぬめりと多量の滲出液
浮腫性で脆弱な肉芽
日本褥瘡学会編:改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント.照林社,東京,2020:28.より引用
- ②細菌学的検査
細菌数は臨界的定着や感染を判断する根拠にはなりません。また臨床で組織生検を行うことは難しいため、組織中の細菌学的検査は確定診断としては推奨されていません。一方で、臨界的定着の本態であるバイオフィルムの検出には、以下のような簡便な手法が考案されています。
滅菌されたメンブレンシートを創部に10秒間貼付します。専用の前処理液・染色液・脱色液によって合計2分間処理することによって、創面にバイオフィルムがどの程度、どの部分に形成されているかを可視化できるというものです。商品化されたものもあるため、有効に使うことが推奨されます。
引用文献
- 日本褥瘡学会ホームページ:用語集 http://www.jspu.org/jpn/journal/yougo.html#rinkai(2022.7.15アクセス)