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Part10 褥瘡(じょくそう)を治すために必要な栄養と痛みの知識サルコペニア、フレイルについて知っておこう

2023年2月更新(2016年6月公開)

 「サルコペニア」は近年注目されている概念で、「加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下」のことです。人間は老化により、骨格筋量の進行的な低下、それも体力や機能の低下を導く大幅な低下を経験します。「サルコペニア」とは、ギリシャ語で「筋肉」を意味する「sarx」と、「喪失」を意味する「penia」を組み合わせた言葉です。サルコペニアになると、歩いたり立ち上がったりする日常生活動作に困難が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりします。サルコペニアは、身体的な障害や生活の質の低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴います。

 65歳以上の高齢者の15%程度がサルコペニアであると考えられるため、わが国では500万人以上の方がサルコペニアになっていると思われます。サルコペニアの割合は、女性よりも男性のほうが高くなるといわれています。
 サルコペニアは、加齢に伴う図1のような原因で引き起こされます。

図1 サルコペニアの原因

図1 サルコペニアの原因

 サルコペニアの診断基準を図2に示しました。サルコペニアの発症と進行には、いくつかのメカニズムが存在するといわれています。特に、蛋白質合成、蛋白質分解、神経と筋の統合性および筋内脂肪含有量などが含まれます。これらの複数のメカニズムが、サルコペニアに関連する可能性があり、相対的寄与が時間の経過とともに変化する可能性もあります。
 一方、「フレイル」は「加齢により心身が老い衰えた状態(高齢者が筋力や活動が低下している状態:虚弱)」のことです。「虚弱」「老衰」「脆弱」などを意味する「Frailty」が語源とされています。高齢者は、意図しない衰弱、筋力の低下、活動性の低下、認知機能の低下、精神活動の低下などの脆弱な状態(中段階的な段階)を経ることが多いことから、この概念が提唱されました。高齢者は加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態になると理解されがちですが、フレイルの概念によれば、適切な介入によって再び健常な状態に戻る可逆性が含まれています。そのため、「要介護状態に陥るのを防ぐ効果がある」として対策が呼びかけられています。
 サルコペニアもフレイルも、加齢に伴う機能低下を意味していますが、この2つはどう違うのでしょうか。サルコペニアは、筋肉量減少を主体として、筋力、身体機能の低下を主要因としているのに対して、フレイルは、移動能力、筋力、バランス、運動処理能力、認知機能、栄養状態、持久力、日常生活の活動性、疲労感など、とても広い要素を含んでいます。
 フレイルの基準としては、Friedが提唱したものが一般的です(表1)。Friedの基準5項目のうち3項目以上該当すると“フレイル”、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階である“プレフレイル”と判断されます。
 高齢者のサルコペニアとフレイルは、栄養状態が関連するさまざまな疾患や合併症の治癒・回復に大きく関係してきます。褥瘡はまさに栄養状態が重要なカギを握る合併症の1つです。

図2 サルコペニアの診断基準2019(AWGS 2019)

図2 サルコペニアの診断基準2019(AWGS 2019)

日本サルコペニア・フレイル学会:サルコペニア診断基準の改訂(AWGS2019 発表).より引用
http://jssf.umin.jp/pdf/revision_20191111.pdf(2022/8/5アクセス)

表1 フレイルの基準

  1. ①体重減少:意図しない年間4~5kgまたは5%以上の体重減少
  2. ②疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3~4日以上感じる
  3. ③歩行速度の低下
  4. ④握力の低下
  5. ⑤身体活動量の低下

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