Part7 褥瘡(じょくそう)をやさしくケアするスキンケアと失禁への対応
褥瘡(じょくそう)周囲皮膚と創部の洗浄方法2016年6月公開
褥瘡アセスメントに必須!改定された「DESIGN-R®2020」
ここだけは知っておきたいポイント
1.創周囲の洗浄
褥瘡周囲の皮膚は、表面の汗、皮脂に加えて空気中のほこりなどによって汚染されていると同時に、創からの滲出液や細菌が接触します。褥瘡周囲の皮膚は肉眼では浸軟が見られなくても経皮水分蒸散量値(transepidermal water loss:TEWL)が高い値を示していてバリア機能が低下していることがあります。褥瘡治癒のためには、皮膚の正常な角化によって健常な皮膚が形成されなくてはなりません。創周囲皮膚を洗浄すると角化細胞による上皮化が促されるため、褥瘡周囲皮膚の洗浄が大事になってきます。
洗浄剤には石けんと合成洗剤があります。洗剤を使うか石けんを使うかは皮膚の状態によります。その例を表2に示しました。ガイドラインでは、褥瘡治癒促進のために「弱酸性洗浄剤による洗浄を行ってもよい(推奨度C1)」となっています。ただ、弱酸性洗浄剤が創傷治癒の促進に有効であるというエビデンスがあるわけではありません。高齢者のように皮脂量が減少している場合は、アルカリ性洗浄剤(石けん)よりも皮脂量の喪失が少ない弱酸性洗浄剤のほうがよいといえるでしょう。
表2 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)
脆弱な皮膚 | 弱酸性洗浄剤
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真菌が検出された皮膚 | 硝酸ミコナゾールを配合した石けん
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皮膚洗浄と保湿が必要な皮膚 | 両方の機能をもつ製品
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洗浄は、石けんや洗浄剤を泡立てて、摩擦しないようにグローブを付けて皮膚をこすらないように愛護的に行うのが原則です。泡はクッションの役割を果たすとともに、泡立てることによって洗浄剤の残留は少なくなります(図2)。創周囲の皮膚の汚れを清浄クリームを使って取り除く方法もあります(図3)。清浄クリームは天然オイルで、汚れを浮き上がらせることで汚れとオイルが混じり合います。拭き取ることによって汚れが除去できます(図4)。
図2 褥瘡周囲皮膚の洗浄方法(洗浄剤を使って洗う場合)

あらかじめ洗浄剤を十分泡立て、創周囲皮膚に
泡をのせるように置き、周囲皮膚を愛護的に
洗浄する。創内は洗浄剤では洗わない。

洗浄剤を38℃ほど(人肌程度)の微温湯で
十分に洗い流す。
図3 褥瘡周囲皮膚の汚れを清浄クリームで取り除く場合

ふき取り用保湿洗浄剤を周囲皮膚に塗り、
創周囲の汚れを浮き上がらせる。

不織布など柔らかい材質のもので保湿洗浄剤を
ふき取る。
図4 清浄クリームによる洗浄の様子
中川ひろみ:褥瘡のスキンケア.褥瘡治療・ケアトータルガイド,照林社,東京,2009:171.引用
2.創部の洗浄
創内部の洗浄は、洗浄剤では行わないことが原則です。創周囲皮膚を洗浄の際、創部に入ってしまった洗浄剤は洗い流さなければなりません。
それでは、創内の洗浄はどうすればいいでしょうか。基本的に、生理食塩水か水道水で洗浄します。洗浄の目的は、創表面に付着した細菌類の数を減らすことです。わが国のガイドラインでは、「十分な量の生理食塩水または水道水を用いて洗浄する(推奨度C1)」となっています。NPUAP/EPUAPガイドライン(2009年)でも、壊死組織のない褥瘡に対して生理食塩水または水道水の使用を認めています。ただし、明らかに感染があると認められている創に対しては、殺菌作用のある洗浄剤を使用することが認められています。
洗浄液の温度は患者が冷たいと感じない程度の38℃くらいの微温湯が望ましいでしょう(図5)。
図5 創内部の洗浄には微温湯を用いる

(写真提供:切手俊弘)