最新ガイドライン、DESIGN-R®2020に基づく 新まるわかり褥瘡ケア

Part8 褥瘡(じょくそう)をやさしくケアするスキンケアと失禁への対応褥瘡周囲皮膚と創部の洗浄方法

2023年2月更新(2016年6月公開)

1.創周囲の洗浄

 褥瘡周囲の皮膚は、表面の汗、皮脂に加えて空気中のほこりなどによって汚染されていると同時に、創からの滲出液や細菌が接触します。
 褥瘡周囲の皮膚は肉眼では浸軟が見られなくても経皮水分蒸散量値(transepidermal waterloss:TEWL)が高い値を示していてバリア機能が低下していることがあります。褥瘡治癒のためには、皮膚の正常な角化によって健常な皮膚が形成されなくてはなりません。創周囲皮膚を洗浄すると角化細胞による上皮化が促されるため、褥瘡周囲皮膚の洗浄が大事になってきます。
 洗浄剤には石けんと合成洗剤があります。洗剤を使うか石けんを使うかは皮膚の状態によります。その例を表1に示しました。『褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)』では、創周囲皮膚の洗浄について以下のように記載されています。
 「皮膚の生理機能を正常に保つことが創周囲からの上皮化を妨げないとするならば、石鹸より弱酸性の洗浄剤、さらに皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択することが望ましいといえる。なお、褥瘡周囲皮膚の洗浄時に創内に入った皮膚洗浄剤は、生理食塩水や微温湯などの創部用の洗浄液で洗い流すとよい。」
 ただし、弱酸性洗浄剤が創傷治癒の促進に有効であるという明確なエビデンスがあるわけではありません。高齢者のように皮脂量が減少している場合は、アルカリ性洗浄剤(石けん)よりも皮脂量の喪失が少ない弱酸性洗浄剤のほうがよいといえるでしょう。
 洗浄は、石けんや洗浄剤を泡立てて、摩擦しないようにグローブを付けて皮膚を擦らないように愛護的に行うのが原則です。泡はクッションの役割を果たすとともに、泡立てることによって洗浄剤の残留は少なくなります(図1)。創周囲の皮膚の汚れを清浄クリームを使って取り除く方法もあります(図2)。清浄クリームは天然オイルで、汚れを浮き上がらせることで汚れとオイルが混じり合います。拭き取ることによって汚れが除去できます(図3)。

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

脆弱な皮膚

弱酸性洗浄剤

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

ソフティ 泡洗浄料
150mL 業務用
(花王プロフェッショナル・サービス株式会社)

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

セキューラ®CL(スミス・アンド・ネフュー株式会社)

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

リモイス®クレンズ
(アルケア株式会社)

真菌が検出された皮膚

ミコナゾール硝酸塩を配合した石けん

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

コラージュフルフル泡石鹸
(持田ヘルスケア株式会社)

皮膚洗浄と保湿が必要な皮膚

両方の機能をもつ製品

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

ソフティ 泡洗浄料
150mL 業務用
(花王プロフェッショナル・サービス株式会社)

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

セキューラ®CL(スミス・アンド・ネフュー株式会社)

表1 洗浄剤・石けんの使い分け(製品は一例)

リモイス®クレンズ
(アルケア株式会社)

図1 褥瘡周囲皮膚の洗浄方法(洗浄剤を使って洗う場合)

図1 褥瘡周囲皮膚の洗浄方法(洗浄剤を使って洗う場合)

あらかじめ洗浄剤を十分泡立て、創周囲皮膚に泡をのせるように置き、周囲皮膚を愛護的に洗浄する。創内は洗浄剤では洗わない

図1 褥瘡周囲皮膚の洗浄方法(洗浄剤を使って洗う場合)

洗浄剤を38℃ほど(人肌程度)の微温湯で十分に洗い流す

図2 褥瘡周囲皮膚の汚れを清浄クリームで取り除く場合

図2 褥瘡周囲皮膚の汚れを清浄クリームで取り除く場合

清浄クリーム(拭き取り用保湿洗浄剤)を周囲皮膚に塗り、創周囲の汚れを浮き上がらせる

図2 褥瘡周囲皮膚の汚れを清浄クリームで取り除く場合

不織布など柔らかい材質のもので清浄クリームを拭き取る

図3 清浄クリームによる洗浄の様子

図2 褥瘡周囲皮膚の汚れを清浄クリームで取り除く場合

中川ひろみ:褥瘡のスキンケア.褥瘡治療・ケアトータルガイド.照林社,東京,2009:171.より引用

2.創部の洗浄

 創周囲皮膚を洗浄する際、創部に入ってしまった洗浄剤は洗い流さなければならないことは前述しました。それでは、創内部を洗浄するときはどうでしょう。これまでは洗浄剤では行わないことが原則とされてきました。つまり、創内の洗浄は、基本的に生理食塩水か水道水で洗浄するものとされてきました。洗浄の目的は、創表面に付着した細菌類の数を減らすことです。『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』では、「十分な量の生理食塩水または水道水を用いて洗浄する(推奨度C1)」となっています。NPUAP/EPUAPガイドライン(2009年)でも、壊死組織のない褥瘡に対して生理食塩水または水道水の使用を認めています。洗浄液の温度は患者が冷たいと感じない程度の38℃くらいの微温湯が望ましいでしょう(図4)。
 ただし、明らかに感染があると認められている創に対しては、殺菌作用のある洗浄剤を使用することが認められています。
 特にバイオフィルムなどが想定される場合は、Wound hygiene(創傷衛生)の「cleanse:洗浄」の項で、これまで行われていた創の洗浄方法では不十分であることが指摘されています。生理食塩水や微温湯を用いた流水による洗浄では、創面に付着したバイオフィルムや創面をコーティングするように付着しているタンパク質成分の異物を除去することができないからです。そのため、創の中も界面活性剤を含んだ創傷洗浄剤で強く洗うことが推奨されています。

図4 創内部洗浄は原則的に微温湯を

図4 創内部洗浄は原則的に微温湯を

(写真提供:切手俊弘)

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